経済力と軍事力のどちらがより重要か--ハーバード大学教授 ジョセフ・S・ナイ

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これは軍事力の役割に関するより大きなポイントにつながっていく。一部の専門家は、軍事力は効用が限定的で、もはや最終的な物差しではないと述べている。しかし、軍事力がいつも特定の状況を決定するわけではないという事実は、軍事力がすべての効用を失ったということを意味するわけではない。軍事力を行使することが困難な状況が増えているが、依然として軍事力が重要であることに変わりはない。

市場や経済力は政治的な枠組みに依存している。その枠組みは、規範や制度、諸関係だけでなく、強制力の管理にも依存している。秩序の守られた現代国家とは、軍事力の合法的な行使に対する独占権を持ち、国内市場をうまく機能させている国家である。秩序が確立していない国際社会では、軍事力の行使への懸念が重要な効果を発揮するのだ。

21世紀には、軍事力が19世紀や20世紀と同じ効用を国家にもたらすことはない。だが、世界の政治の中で極めて重要なパワーの要素であることに変わりはないのである。

Joseph S. Nye, Jr.
1937年生まれ。64年、ハーバード大学大学院博士課程修了。政治学博士。カーター政権国務次官代理、クリントン政権国防次官補を歴任。ハーバード大学ケネディ行政大学院学長などを経て、現在同大学特別功労教授。『ソフト・パワー』など著書多数。

(週刊東洋経済2011年7月9日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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