インドネシア新型電車「中国受注」でも日本に商機 国産車は日本製機器採用、大統領選も影響?

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もちろん、東南アジア=多方面外交という基本方針を押さえておくのは大前提だ。傍から見ると、八方美人のようで悪いイメージがあるかもしれないが、それが大原則である。とくに鉄道案件は政治と密接に関わっているため、避けて通ることはできない。これを批判するのはご法度である。同時に、日本だけが常に選ばれるということはあり得ない。だから、誠実、謙虚な態度が求められる。

しかし、大きな企業になればなるほど、客先の要望に応えようとせず、高慢、殿様商売的な態度を取るビジネスマンが散見されるのは残念な限りだ。実際に日本企業への不信の一端が、インドネシア側から表れている。社会や文化、人々の考え方を押さえておくことも重要だ。余談ではあるが、①の日本側がKCIに求めた契約可否の回答期限は12月25日だ。世界的に祝日となっているこの日に回答を求めるというのは、海外ビジネスのセンスを疑わざるを得ない。日本人はクリスマスでも働くのかと、インドネシア人に逆に質問されるほどだった。

素早く動く中韓、日本も戦略を

インドネシアの鉄道事情は刻一刻と変化している。2022年にKAIグループは大幅な事業再編を実行した。KCIは業務範囲が拡大し、ジャカルタ首都圏のみならず地方部の非電化区間の普通列車運行も加わった。現在はKAIの機関車および客車を暫定的にリースして営業しているが、自前での車両所有を希望している。CRRCは事業再編後すぐに動いており、他企業が意思表示をしていないことから、電気式気動車の随意契約に向けて準備を進めている。

一方、KCIと同じく電車を運行していた空港鉄道(Railink)はその業務(スカルノ・ハッタ空港線)をKCIに譲渡し、気動車運行区間(メダン空港線およびKAIから事業譲渡されたジョグジャカルタ空港線)のみのオペレーターとなった。さらに財務基盤安定のため、グループ各社に散逸していた調達業務をRailinkに一本化した。今後、KCI向けの部品納入も、原則として同社が窓口となる。

スカルノ・ハッタ空港鉄道 電車
スカルノ・ハッタ空港線を走る電車。事業再編で同線の運行業務はそれまでのRailinkからKCIに譲渡された(筆者撮影)

これにいち早い動きを見せたのは韓国だ。多元シスは昨年9月にRailinkとパートナーシップ協定を結んだ。以前から多元シスはインドネシアへの営業を強化しており、冷房など一部の製品で納入実績がある。Railinkが代理店となったことで、KAIグループ内への同社製品の営業が一層強化される。また、Railinkは運輸省予算でメダン空港線の延長工事を進めており、宇進がすでに準備を進めている模様で、これも随意契約になるものと思われる。

東南アジア最大の鉄道市場というインドネシアの立ち位置は揺るぎないものだ。だからこそ、各国が虎視眈々と、ビジネスチャンスを狙っている。護送船団式な政府開発援助に頼るビジネスは終わりを迎えた。消耗部品、電機品、金属製品、そして車両、あらゆるプレーヤーが単体で戦わなければならない、いや戦える新たな時代の到来だ。10年後、20年後を見据えた戦略が求められる。ポスト205系の座を射止めるために、今から動く必要がある。

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高木 聡 アジアン鉄道ライター

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たかぎ さとし / Satoshi Takagi

立教大学観光学部卒。JR線全線完乗後、活動の起点を東南アジアに移す。インドネシア在住。鉄道誌『鉄道ファン』での記事執筆、「ジャカルタの205系」「ジャカルタの東京地下鉄関連の車両」など。JABODETABEK COMMUTERS NEWS管理人。

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