インドネシア新型電車「中国受注」でも日本に商機 国産車は日本製機器採用、大統領選も影響?
今回のCRRCとの契約は①にあたる部分である。非常に短い納期が要求されているが、実は当初、有力候補として挙がっていたのはJR東日本グループの総合車両製作所(J-TREC)だった。同社は6月の中古車両の輸入禁止の決定を受けた直後、JR東日本と共に、KCIへアプローチをかけている。2023年内の契約で、2024年末までの納入は可能と判断された模様だ。
これには秘策があった。山手線や横須賀線で使われているE235系電車をほぼそのままのかたちで導入することだ。国内での輸送力適正化に伴う減産分を輸出向けに回せば、確かに短納期での製造は可能である。新型車両の導入には原則EN(欧州規格)に準じた強度・安全認証が必要であるが、KCIは運輸省に対してE235系の型式認証を行い、受理されていることが運輸省資料からも判明しており、これが現実にE235系が売り込まれていた証拠になっている。
また、日本国内向けの設計をそのまま転用することは、コストダウンにもつながる。KCI社員の証言によれば、当初、見積もられていた金額は1両あたりおよそ188億ルピア(約1億7770万円)。近年の物価高で以前より値上がりしているとは言え、ざっくり1両1億円と計算して、輸出用価格は1.5倍の1.5億円程度となる。これには輸送費や一定期間のスぺアパーツ供給、保証期間内の修理対応などが含まれるのが通例だ。
実際にはこのほかに設計費などもかかるため、これ以上に膨らむことになるが、E235系であれば新規設計部分が少ないため、日本からの輸出車両としてはかなり安い金額に抑えられていて、かつ妥当な金額と言える。これが決め手となり、KCIはJ-TRECからの車両購入へ前向きに動いていたと見られている。
国産新車は「限りなく日本仕様」
しかし、前出のKCI社員によると、見積もり金額は最終的に247億ルピア(約2億3340万円)まで引き上げられたという。その結果、ほぼ本決まりに見えていた契約は、結局プロポーサル方式での業者選定にもつれ込み、納期こそ優位であったもののJ-TRECは次点、CRRCが受注する結果となった。
KCIは本件に対して4カ国の5社が意向を示したと発表しており、その顔ぶれは日中2社のほか、韓国宇進産電、韓国多元シス、そしてスペインCAFだったとされる。ただ、CAFはプロポーサルを年内までに行わず、韓国2社も納期と金額の兼ね合いからか空入札に近い状態で、実質、日中の一騎打ちだった。
ただ、これでKCIの「日本の血」が途絶えるというわけではない。インドネシア国産の新型車両は、2022年にスイスのシュタッドラーとの提携によりINKAが製造する予定であったが(2022年5月18日付記事「『日本の牙城』ジャカルタ鉄道に迫る欧州勢の脅威」)、KCIの猛烈な抵抗によりこの提携は解消され、日本仕様での製造を前提に2023年3月に再度、KCIとINKAの間で調達契約が交わされた。これが、そのまま冒頭の②(国産車両12両編成16本を2025~2026年に導入)に当たる。
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