ただ、黒田日本銀行総裁の発言などを踏まえると、追加緩和の判断については、短期的な消費者物価の変動よりも、1)経済指標が示す景気の方向性、2)「基調的なインフレ率」あるいは「インフレ予想の変化」を、より重要と判断しているとみられる。
「基調的なインフレ率」を何で計るかは難しい。だが、日本銀行が5月初めに作成した論文などから推察すると、日銀は「基調的なインフレ率」については「0.8%前後で推移している」と判断しているようだ。そして、原油価格の下押し圧力によって、コアCPIが若干のマイナスとなっても、「基調的なインフレ率」を変えるには至らない、と認識しているようだ。
金融緩和がないと、日本株は上昇しないのか?
こうした中で、日銀は4月末の展望レポート発表時での、追加金融緩和は見送った。「サプライズ緩和」が実現した2014年10月は、消費増税の悪影響が長期化して景気指標停滞が続き、それがインフレ予想を低下させる悪影響が懸念されたのだろう。ただ、4月末から現在にかけて、循環的な景気指標の改善が続いているため、インフレの基調を変えるリスクは限定的とみられる。
今後、表面的な消費者物価がゼロ近傍あるいは小幅マイナスとなっても、サービス価格の押し上げが相殺するため、マイナス幅が一段と拡大する可能性は低い。そして、循環的な景気回復が世界各国で続き、かつインフレ期待が安定するとみられ、2014年後半のように日本銀行による金融緩和が実現する可能性は高くないと、筆者は現段階では予想している。
ただ、金融緩和が期待できないからといって、日本のマーケットに期待ができないわけではない。すでに、日経平均株価は2万円台まで上昇、ドル円は120円を超えてドルが上昇している。米欧の金融市場が不安定な中でも、5月半ばから日経平均株価は27年ぶりの12連騰を記録するなど日本株のパフォーマンスは良かった。
この要因について、コーポレートガバナンス強化への期待など、市場関係者の間では、いくつかの要因が挙げられている。だが筆者は、日本銀行が2%インフレ率実現にこだわる姿勢が金融市場に伝わり、「現在の金融緩和は長期化する」という市場の期待がより頑強になったことが、5月の日本株高を後押しした側面が無視できないと考えている。
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