3週間が過ぎた現在は「急性期」にあたるが、高橋さんは「奥能登地方へのアクセスは当初は電柱が道路に倒れ、地震でできた道の亀裂や段差により、通常は1時間程度で行ける場所に10時間かかった。これまでの被災地と比べ、能登はこうしたアクセスの困難さもあり、支援が十分に入れていない。余震が続いていることも大きく、急性期が長引いているといえる」と話す。
災害直後に起こる心の状態とPTSD
災害直後、被災者は誰もがショックを受け、茫然自失の状態になる。
それと同時に、大切な人との死別や住宅などの倒壊がもたらす強い悲しみと喪失感、命の危険にさらされた恐怖感、なぜ自分がこのような目に遭うのかという怒り、罪悪感、現実を認めたくない否認など、さまざまな感情が起き、気分の落ち込み、不安、不眠、無気力、興奮状態などが現れる。
しかし、これは「災害という異常事態において起こる強いストレスによって、誰にでも起こる反応です」と高橋さんは言う。
ASD(急性ストレス障害)やうつ病を起こすこともある。
ASDの症状は、災害直後の悲惨な光景を繰り返し思い出したり、逆に感情がマヒして災害に関する情報を避けたり、気が高ぶって些細な刺激に過敏に反応したりするもの。
そうした症状が1カ月以上強く続くと、疑われるのがPTSD(心的外傷後ストレス障害)だ。
だが、「実際にPTSDと診断される率は高くない」と高橋さん。それは、「ほとんどの場合、水や食料の確保、大切な人と連絡が取れるなど基本的なニーズが満たされ、心理的、社会的に適切な支援が受けられれば、災害直後のストレスによる不安、抑うつ、不眠などの症状は時間とともに徐々に低減していく」からだ。
その一方で、PTSDになりやすいハイリスクの人も少なからずいる。
それは、過去の災害で同様の経験をした人や、ショッキングな光景を見た人、津波で流されるなど命の危険を体験した人などだという。こういう人は早いタイミングで精神科医や心理士など、専門家によるサポートを受けたほうがいいとされている。
なかでも自殺念慮(死にたいという気持ちが出てきた状態)や自傷他害(実際に自分や他人を傷つけるという行為をする状態)が見られるような場合は、早急に専門機関に相談すべきと高橋さんは話す。抑うつ、興味・関心の低下、睡眠障害、食欲不振、倦怠感といったうつ症状が出た場合も同様だ。
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