台湾次期副総統「戦猫」が見せる穏健な改革路線 さまざまな試練で磨かれた「即戦力」の政治家

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2010年、中国国民党(国民党)の地盤とされる花蓮県の立法委員補欠選挙に出馬する。結果は惨敗。しかし、民進党にとって不毛の地とされたこの地に根を張り、10年間とどまった。外交分野で長く活躍してきた彼女が、地方で一から政治活動をすることに多くの人々が驚いたことは想像にたやすい。

どんな世界でも1つの事に全力で取り組むことで、最後には何かしらの果実が得られるのは世のつねである。2016年の選挙では、蕭美琴は得票率の過半数を得て国民党の王廷升に勝利。後に台湾政界で「奇跡」と称されるほどの出来事を成し遂げたのである。

しかし、4年後の立法院選挙では、捲土重来の如く、一族で花蓮に絶大な権力を有し、土地の売買などに絡む汚職事件で出所したばかりの「花蓮王」傅崐萁に敗れたのだった。

戦猫「ファイティングキャット」へ

落選後、蕭美琴は再び外交畑に戻る。2020年7月、駐アメリカ台湾代表に就任。就任中、国際社会から能力を認められ『ニューヨークタイムズ』は彼女を「ワシントンで最も影響力を有する外国大使の1人」と論評。ナンシー・ペロシ前下院議長もまれに見る外交官兼戦略思想家だと称えた。

蕭美琴の3年半にわたる外交スタンス「戦猫:ファイティングキャット」について、彼女は最も重要なのはつねに「バランス感覚」を持つことだと語る。台湾が直面する複雑な国際環境の中で、さまざまな力が多方面から働く。

駐米代表としてアメリカ国内の与野党間との調整はもとより、米台間のバランスや台湾内の各党派の状況も踏まえなければならない。さらに言えば、中国と台湾間のさまざまな利害関係者間でもバランスよく立ち回らなければならない。

蕭美琴氏(右から3番目)はワシントンでは「大使」として、台湾の国際的地位向上に貢献した(写真・駐米台北経済文化代表処のホームページより)

台湾内の政党は、外交では目に見える成果を急ぐ傾向にある。しかし現実の外交では、時に大きな声を張り上げたり、一方で小さい声で話したり、時に強硬なスタンスを取ったり、一方で柔軟に対応したりしなければならない。さらに剛柔併せて対応することも必要だ。

彼女は、「すべてのアクションで熟慮が必要。そうやって目まぐるしく変化する国際情勢の中で台湾を着実に前に進めてきました」と語る。

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