中国「5%成長達成」の裏で習近平が金融界に戒厳令 空振りの「GDPフライング発表」に映る切実

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方向性は決まったはずなのに、わざわざ全国から幹部を集めたのは、なぜなのか。中国の金融に詳しい大阪経済大学の福本智之教授(元日本銀行国際局長)は、その意義付けについて「中央金融工作会議の延長線上だが、攻めと守りで金融を強くして、システミックリスクを起こさせないのだというメッセージを伝えたかったのではないか」と分析する。

「攻め」と「守り」のうち、より優先度が高いのは「守り」だろう。「攻め」の内容は中央金融工作会議で宣言された金融強国の建設だ。究極的には、基軸通貨であるドルを握るアメリカに経済の首根っこを押さえられている現状を打破するのが目的だとみられる。かなり長い時間軸での取り組みだ。

一方「守り」では、監督管理の強化とリスク処理メカニズムの確立に強いメッセージを出している。不動産のリスク処理に対してはまだ目立った動きはないが、地方債務への対応に加え、2023年秋から地方金融機関の合併再編が加速している。まさに「いまそこにある危機」を見据えた内容だ。

金融リスクの処理は待ったなし

習政権は、金融リスクの処理は待ったなしという意識を強めているとみられる。2024年には地方政府の債務のリストラ、中小金融機関の清算と合併などが一層進む可能性がある。

習主席のリーダーシップのもと、共産党に権限を一元化することで問題処理のスピード感は増しそうだ。ただ、「西側の金融モデルとは根本的に異なる」部分を強調しすぎて市場メカニズムを活かせなくなれば、経済効率の低下を招くだろう。

金融関連で繰り返し同趣旨の会議を開いている裏には、習指導部に対する国務院や地方の抵抗がありそうだ。水面下での主導権争いの激しさをうかがわせる。中長期での経済政策を定める共産党の重要会議「3中全会」は、2023年中に開かれるとみられていたが、まだ開催のメドがたっていない。

外資を呼び込むための「対外開放」の旗印と、危機管理を大義名分とした強権発動を両立できるのか。ダボスで李首相が語った明るい未来と、習主席が示した厳しい現状認識のコントラストは象徴的である。2024年は中国経済にとって大きな分岐点になりそうだ。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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