今の戦争が終わっても、元通りにはならない理由 ケインズ著『新訳 平和の経済的帰結』(書評)

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『平和の経済的帰結』は、ドイツに対する過酷な戦争賠償が同国のハイパーインフレーションや過激な社会主義やナショナリズムの台頭、ひいてはヨーロッパ全体の破滅をもたらすと的確に予言したとして、高く評価されることがある。

そういった視点も重要であるが、筆者が興味を引かれたのは、ケインズが、第一次世界大戦以前の第一次グローバリゼーションの中に、すでに破滅をもたらす構造的な矛盾があったことを指摘していたことである。したがって、第一次グローバリゼーションは世界大戦という偶発的な事件によって終焉したというよりは、遅かれ早かれ、その構造的な矛盾によって、自滅的に終焉していたのである。

むしろ、世界大戦が第一次グローバリゼーションの構造的矛盾の結果だったという可能性すらあろう。しかし、上記の引用にあるように、当時の人びとは、第一次グローバリゼーションの矛盾に気づかず、その兆候が現れても、それを構造的なものではなく、一時的な事象としてしかとらえていなかったのである。

今までの生活は決してあたりまえではない

同じことは、現代でも言える。

例えば、2017年、アメリカにドナルド・トランプ大統領が登場し、保護主義や対中強硬策など、脱グローバリゼーションへと走った。当時、多くの人びとは、脱グローバリゼーションは、トランプという異形の大統領が引き起こした異常事態にすぎないのであり、トランプが去れば、アメリカは、元のグローバリゼーション路線へと回帰するものと期待していた。

要するに、第二次グローバリゼーションがはらんでいた構造的矛盾から目を逸らしていたのである。ケインズの表現を借りれば、彼らは、グローバリゼーションが「普通で、確実で、永続的か、変わるにしてもさらに改善されるしかありえないと思っており、そこから少しでも逸脱があれば、それは異常なことであり、とんでもない話であり、回避できたはずだと思っていた」のだ。しかし、実際には、トランプ政権を襲ったバイデン政権は、前政権の脱グローバリゼーション路線を実質的に引き継いだのである。そして、今年、再び大統領選がある。

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