「郵便局冤罪ドラマ」でイギリスが大騒ぎなワケ 調査報道で動かなかった政府も緊急行動

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圧力にさらされたリシ・スナク首相は1月10日、把握している全被害者を無罪とし、補償を行うための新しい法律を約束した。何年にも及ぶ遅々とした対応の後、ようやく正義をもたらすことを目的とした全面的な介入が行われることになったのである。

警察はその前週、管理者に使用を強制していたITシステムに欠陥があったと認めることを何年も拒んできたポストオフィスの幹部らが法的責任を問われるべきか調査すると突然発表した。

ポストオフィスのCEOを務めたポーラ・ヴェネルズ氏は、勲章剥奪を求める嘆願書に100万人以上が署名したことを受けて、2019年に女王から授与された勲章を返上した。

TVドラマがもたらした想定外のインパクト

こうした一連の動きは、ある興味深い疑問を残すことになった。調査報道ジャーナリストや政治家が10年以上かかってもできなかったことを、1つのテレビ番組はどうして1週間で成し遂げることができたのか、という疑問だ。

「ミスター・ベイツ対ポストオフィス」の脚本を書いたグウィネス・ヒューズ氏は、「どれだけ優れた報道が行われたとしても、それはおそらく知性、つまり頭に訴えかけるものだろう」と語った。「その一方でドラマは心に訴えるようにつくられている。ドラマとは、何千年も前からそのようなものだった」。

ロンドン大学シティ校のマティアス・フレイ教授(メディア学)によると、このドラマは地上波テレビが人々の認識を変え、幅広い国民的な議論を喚起する「昔ながらの井戸端会議」を生み出す力を持ち続けていることを示しているという。

番組のエグゼクティブプロデューサー、パトリック・スペンス氏も、反響の大きさに驚いた。放送前に同氏は、視聴者獲得競争は厳しいので、たいした視聴率が出なくても気を落とすべきではない、とチームに伝えていた。

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