松下幸之助は肯定的な人間観を持っていた

「人間は偉大な存在や」

うん?食物連鎖?そうやね。人間は万物の頂点に立っておるというのが、実際やな。そやから、それにふさわしい責任を自覚せんと。それだけ大きな責任を果さんといかんと。とてつもなく大きい責任や。人間は、万物を、そのもののあるべき姿に保つ、維持するということを、強く意識せんといかん。慈悲心やな。なんでもできるからといって、人間の勝手気ままにやったらいかん。そういうことをやったら、結局、人間は自滅することになる。

人間は偉大な存在なんやな、そう、万物の王者といってもいい。そういう人間観を持たないといかん時代になってきた。つまらん存在、小さな存在と言ってる間は、戦争も起こるし、人殺しも起こるし、互いにののしり合ったりする。当たり前やろ。人間は、つまらん存在なんだから、殺したろ、戦争したろうという、軽い気持ちになる。

学校でね。人間は偉大な存在、それはあんただけでない、友だちも、偉大な存在であるということを、しっかりと教えると。そういうことを教えれば、友だち同士、尊重し合いながら付き合いなさいということも言えるしね。子どもたちも、そう思う。そうすれば、この頃のような、校内暴力とか、そういうものもなくなるんや。学校で、人間は偉大な存在ということをしっかりと教えておれば、人間大事で、お互いに尊重し合うようになる。

そんなもんやで。争いは、人間は偉大という考えに徹すれば、なくならんとしても、今よりはるかに少なくなると、わしはそう思うな」

偉大な存在と自覚するからこそ、責務を感じられる

松下幸之助は、徹底して、この「人間は偉大な存在」という人間観を、自らの考え、行動の根底に置いていた。経営においても、政治に対しても、人間関係においても、すべての自分の言動、思考は、この人間観を出発点として、経営哲学も、政治哲学も、社会哲学も構築した。松下幸之助の研究をするならば、ここから始められなければならない。(詳細は、松下幸之助著『人間を考える』をご参照いただきたい。)

この松下の人間観を、傲慢というならば、「人間の責任回避(responsibility avoidance of human)」と言えるだろう。ご承知のように、ノブレス・オブリージュ(noblesse oblige)という言葉がある。高い地位にある者は、高い責務を果たす必要がある、という意味。まったく、そのとおりであると思う人は多いだろう。その言葉の意味するところと、松下の「人間は偉大な存在」という人間観は、ベクトルは同じではないか。

実際、私自身が経営者になったときに、それまでの自分とは、数段、その責任が重くなったことを実感しているからだ。その役割の大きさを思えば思うほど、夜も眠れないほどの責任を感じたものである。

人間も、自ら偉大な存在と自覚すれば、この宇宙、この地球、また、自然、万物に対して、数段重い責務を感じるだろう。

「さあ、きみ、行こうか。大亀さんが、真々庵に来はるやろ」。

禅話に、「玄中の玄とはなんぞや」と問われて、趙州(じょうしゅう)和尚、答えて曰く「七中の七、八中の八」と答える。「禅の本質はなんぞや」と問われ、「人が七人おれば七人みな仏、八人おれば八人みな仏。それが禅の本質だ」ということ。これも、同じことだろう。

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