「快進撃」インドネシア高速鉄道、延伸計画の行方 経済急成長で「待ったなし」、資金調達には課題

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筆頭株主であるKAIの業績は好調そのものだ。2013年に8.6兆ルピア(約798億円)だったKAIの年間売上高は、2022年には25兆ルピア(約2320億円)までに拡大している。仮に高速鉄道の収入が伸び悩み、返済に窮することがあれば、KAIが救済に出ることになるだろう。もっとも、この急激な売り上げの伸びも、ジョコウィ政権始まって以来、国からKAIへの補助金増額、そして運輸省を通じた急速な鉄道インフラ整備の結果でもある。

従来、周辺各国の鉄道から近代化に大きく後れをとっていたインドネシアの鉄道だが、わずか、この10年で定時制、安全性、快適性、そして速達性いずれをとっても、東南アジア一の鉄道であると言わしめるまでになった。それはひとえに、鉄道は社会資本であり、赤字になるとしても国費を投じて整備すべきという“庶民派”ジョコウィ大統領の考えに基づくものだ。鉄道単体で儲からなくとも、沿線地域が発展し、社会が潤えばそれでいいという発想は、従来の大統領とは真逆の考え方である。日本が支援したジャカルタのMRT(地下鉄)も、ジョコウィ氏の登板まで着工のゴーサインを得ることができなかった。

ジャカルタMRT
日本の支援で建設されたジャカルタMRTの電車(筆者撮影)

しかし、運輸収入の半分は政府補助金によって賄われている。全体で見ればMRTですら赤字だ。インドネシアは、鉄道を整備すれば整備するほど、建設費とは別に運行補助金が増え続けるというジレンマを抱えている。歴代の指導者たちは国費投入を嫌って鉄道整備に後ろ向きで、2010年代初頭まで鉄道は瀕死の状態だった。それがジョコウィ政権始まって以来、大小問わず、各地で急速に鉄道プロジェクトが始動した。

次はスラバヤ延伸と「国産化」

よって、資金調達方法は、政府間借款のみならず、直接の国費投入(運輸省予算)、PPP方式と多岐にわたることになった。そこで、MRTなどの都市鉄道に比べて高い料金設定で、自立した運営が可能(運行補助金を投入しない)とされる高速鉄道はPPP方式となった。インドネシアは対外借入依存からの脱却を目指しており、近年の政府債務は、GDP比で3割前後という低い水準を維持している。

そんな中、早くもバンドンから先、スラバヤまでの高速鉄道延伸が確実な情勢になってきた。高速鉄道をジャカルタ―バンドン間、わずか142kmの区間にとどめておくことは、あまりにももったいない。今後のさらなる乗客の獲得、収益化のためにも延伸は待ったなしである。

インドネシア高速鉄道 開業区間と延伸予定区間

すでに中国政府はインドネシア側からの要請を受け、スラバヤ延伸に向けた実現可能性調査の実施に合意した。同時にジョコウィ大統領は、高速鉄道の国産化を目指している。任期中の実現はかなわないものの、2023年10月下旬には国営車両製造会社(INKA)と中国中車(CRRC)青島四方との間で、高速鉄道車両開発における技術協力の覚書を締結した。国威の高揚、ナショナリズムに訴えて支持率を取りつけるというのもジョコウィ大統領の政治手法であるが、高速鉄道開業ブームに乗じてスラバヤ延伸への道筋をつけ、次期政権に繋げたい考えだ。

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