「快進撃」インドネシア高速鉄道、延伸計画の行方 経済急成長で「待ったなし」、資金調達には課題

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日本の超低金利ODAによる建設計画から一転、2015年に中国主導の政府保証を求めないPPP方式による建設が決定し、「できるものならやってみろ」と日本政府から恨み節が飛び出るほど、日本・インドネシア両国を揺るがしたジャカルタ―バンドン高速鉄道。順調な駆け出しとはいえ、113兆ルピアとも言われる巨額の建設費をどう返済するのかは、引き続き、日本側からも注目されていることだろう。

ただ、インドネシアからすれば、圧倒的な経済成長を前に余計なお世話と言わざるをえない。工期拡大、コスト増は仮に日本案が採用されていたとしても避けられない事案であり、トータルコストはほぼ同額、異なるのは返済金利程度と見られている。高利貸しのように思われる中国の借款だが、2~3%という金利は商業借款にしてはかなり良心的な部類である。中国側も下げられる限界のところまで下げている。それでも批判の的になるのは、政府保証を求めないとする前提を覆したからである。

しかし、民間プロジェクトとは言うものの、高速鉄道会社(KCIC)に出資するコンソーシアム、PT Pilar Sinergi BUMN Indonesia(PSBI)はKAIを筆頭に、全てが国営(国有)企業である。独立採算を原則とする株式会社ではあるが、多くの助成金が国から投じられており、純粋な民間企業とは言いがたい。職員も国家公務員扱いである。よって、形式的にはPPPプロジェクトであるが、どんな形であれ、国の金が投じられることは暗黙の了解でもあった。

Whoosh ウッス
高速鉄道は名称に中国が入るKCICの名を極力避け、愛称の「Whoosh(ウッス)」を強調している(筆者撮影)

巨額の建設費は「38年で完済」

中国、インドネシアの各企業からの出資額は2022年3月24日付記事「インドネシア高速鉄道、一転『国費投入』の理由」にて詳報したが、ではその後、どのような方法で国費を投入したのだろうか。

まず、PSBIからKCICへの出資額不足に対しては、2021年に新株発行という手法で、国がKAIに4.3兆ルピア(約399億円)の増資を行った。これはそのままKCICへの出資に回され、KAIがKCICの筆頭株主となった。

これにより、KAIからKCICへの総出資額はおよそ5.4兆ルピア(約501億円)となった。なお、これとは別にKAIの決算報告書には、2022年に6.2兆ルピア(約575億円)をPSBIに投資していることが記載されている。

その後、さらに不足していた工期拡大、物価上昇に伴うプロジェクト全体のコストアップ分3.2兆ルピア(約297億円)も、2023年1月にKAIへの新株が発行され、金利2%の中国国家開発銀行からの直接ローンと合わせて、プロジェクト総額、約113兆ルピア(約1兆490億円)の資金が揃うこととなった。

KCICは、このうちの約85兆ルピア(約7890億円)を40年ほどかけて返済する必要がある。現在の利用状況が続くのであれば、人件費や運転経費などが別にかかるとはいえ、決して返済不可能な額ではなく、KAIは38年で完済すると公式に発表している。ならば、政府間契約の借款で国の対外債務を増やす必要性はない。

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