米国の長期金利は歴史的転換をした可能性が高い 再び長期金利が上昇する懸念は本当にないのか

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2023年6月に債務上限問題が一応の決着を見たことで、同国の米財務省は8月以降、財政不足の問題を解消するために米国債の発行額を急速に増やした。

ところが、慢性的な買い手不足の状況下では大量に発行された米国債を裁くことができず、債券市場は供給過剰の状態に陥ったことが、金利上昇の大きな要因である。債券市場における買い手不足の問題は、債券市場の変動率を高めただけでなく、金利の急激な上昇の一因となってきた。

状況が変われば、長期金利も低下に転じる

12月13日に開かれたFOMCでは、ドットチャートと呼ばれるFRB高官の政策金利見通しで2024年が50ベーシスポイント(0.5%)引き下げられ、ジェローム・パウエルFRB議長は会見で2024年の利下げの可能性に言及した。

これを受けて市場は、2024年早期の利下げを本格的に織り込み始めようとしている。一方で、これまでの金利の上昇要因は完全にはなくなっていないことにも注意が必要だ。消費者物価指数(CPI)は変動の激しい食料とエネルギーを除いたコア指数で前年同期比4%上昇という伸びが続いており、FRBが目標としている2%に向けて落ち着くのかは微妙なところだ。

またアメリカ政府の財政赤字の問題もすぐに解消されるようなものではなく、今後も米国債の大量発行はかなりの期間続くことになると思われる。

FRBが積極的に利上げを進めたにもかかわらず、7~9月期の経済成長が年率換算で4%台後半という高い伸びになったことは、大きなサプライズだった。やはり新型コロナウイルスの感染爆発以降に政府が打ち出した巨額の財政支出を伴う経済政策が、長期間相場を押し上げたことが原因だろう。

しかしながら、状況は刻一刻と変わっていくものだ。アメリカのインフレは、堅調な経済や雇用によって需要が高止まりしていることが大きな要因となっているが、これは近い将来に大きく変化する可能性が高い。

確かに、前例のないほど巨額の経済政策だっただけに、この押し上げ効果がいつまで続くのか予想がつかない。だが、永遠に続くことがないこともまた事実だ。

経済政策の効果が薄れてくれば、FRBがこれまで大幅に利上げした影響が、一気に出てくることも十分にありうる。この点は、経済のソフトランディングを予想している向きとは意見が分かれるが、景気が急速に悪化してくれば、インフレ圧力も一気に後退する可能性が高い。そうなればFRBも早期に利下げに転じることができるようになる。

一方、アメリカ国債に関しては、かなりの長期間、大量発行が続くことは避けられないと思われる。だからといって買い手不在の中で債券市場の需給が一段と悪化するとは限らない。

確かにFRBが量的縮小(QT)を行っている限りは、米国債の買い手にはなってくれない。だが新たな買い手が現れてくれば、この問題も解決に向かう。4%前後というアメリカ国債の利回りは、投資家にとって十分に魅力的な水準であり、今後は金融機関や年金基金、ヘッジファンドに至るまで、同国の国債に対する買い意欲が強まりそうだ。もし景気悪化が顕著になれば、需要が急増する可能性も十分にありうる。

将来的な金利低下を予想している向きは、ほとんどがその前提条件としてアメリカ景気の急速な悪化を予想している。それはまったく理にかなっており、少なくとも希望的観測が占める割合が高いソフトランディング予想よりも実現の可能性が高いと考える。

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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