74歳「伝説の理科教育者」の意外と劣等生だった頃 35年で300冊超に関わった、左巻健男の立志編

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「もう最初の一行目から分からないんです。すぐに鉛筆と参考書投げちゃって。でも次の日も、その次の日もがんばって机に向かいました。一行ずつ、頑張って読み解いていきました」

一年間、毎日微分積分を独学で勉強した。

はじめは5分で匙を投げていたのが、いつしか1時間、2時間と集中して勉強できるようになっていた。高3に上がる頃には、ほとんど追試を受けなくて良くなった。

三者面談では、先生には相変わらず、

「高3に上がれるか心配している」

と言われたが、左巻さんは、

「もう少しだけ待ってください。もうすぐ、今やってる勉強の成果が出るはずなんで」

と答えた。

高3のある朝、先生が朝のホームルームで「自分が教員になって、人間ってやればできるってことをこの歳ではじめて知ったよ。今までこのクラスでいたある生徒が、今度の試験で一番になりました」と発表した。

「名前は言いませんでしたが、僕のことでした。職員室では不正行為を疑う先生もいたらしいですけど、担任は『いや、彼はやっと自分の力を出したんだ』って話してくれたそうです」

「僕みたいな人間が教師になるのも良いかもしれない」

高校3年生になってやっと成績がクラスで上位になった。

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ただ、もちろん大学進学となるとまた話は別だ。模試の全国順位ではまだまだかなり下の方だった。

「僕の上には大勢の人がいましたが、でも僕の下にもいっぱい人はいました。『なんだ俺の下にもこんなに人がいるんだな!!』って。行ける高校がないって言われてた僕の下にも、いっぱい人がいるんだなって。そう思うとリラックスできました。

そこからも浪人したり苦労はしましたけど、結果的に千葉大学の教育学部に進学しました。東京工業大学は結局、一度も受験しませんでしたね」

教育学部は基本的には教師になりたい人が進学する学部だ。

「高校時代は人間関係が苦手だし、孤高の化学者みたいなのに憧れていました。ただ少しずつ、僕みたいな『学生時代勉強ができなかった人間』が教師になるのも良いかもしれないなと思い始めました。

子どもたちに対して、ちょっと違った教師になれるんじゃないか? って。それに人間関係が苦手な点に関しても、教師だったら相手にするのは生徒だけだから、なんとかなるんじゃないか? って。

実際なってみたら、生徒の親に同僚に校長に教育委員会にって、すごく人間関係難しかったですけど(笑)」(後編に続きます)

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村田 らむ ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター

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むらた らむ / Ramu Murata

1972年生まれ。キャリアは20年超。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海などへの潜入取材を得意としている。著書に『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)、『ホームレス大図鑑』(竹書房)など。

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