新しい中学校のクラスで、左巻さんの成績は下から2番目だった。
三者面談で、担任の先生に
「高校には行くつもりなのか?」
と尋ねられた。
「『行きたい』って答えました。だったらどこに行きたいんだ? って言われて、当時学区のトップの学校を言ったら、先生は深刻な顔でうつむいちゃって……。『そもそも今のままだと、行ける普通科の高校がない』って言われました。僕は小学校の時から理科が好きだったんですね。だから工業高校なら入れるところがないか? って聞きました」
先生は悩んだ末に、一番簡単に入学できる工業高校の機械科と電気科を勧めてきた。
「僕は手先が不器用なので、機械科と電気科は、手を詰めたり感電しそうだから……」
という理由で断った。
「今ちょうど授業でやっている化学が好きだし得意です、化学がやれる高校はありませんか?」
先生に尋ねると、「死にものぐるいで勉強する気はあるか?」と聞かれた。左巻さんは「やります」と答えた。
「かなり必死に勉強して、その高校に受かりました。ただ、他の生徒は余裕持ってその高校に入学してるんです。僕だけ死にものぐるいで入学したから、学業についていくのは大変でした。
ただ『化学の実験をしてレポートを書く』という授業は大好きでしたね。実験大好きでしたし。逆に、製品の製造プロセスの工程を丸暗記するような授業はまるで苦手でした。
総じて成績は良くなくて、その頃はじめて自我の目覚めがありました」
『俺は一体、これからどうなっていくんだろう?』
と高校2年生の左巻少年は思った。
「成績は悪い、手先は不器用、そして友達を作るのも苦手。3つのマイナス点を抱える人間が、今後どうなっていくんだろう? って。ろくな将来が待っていないのは火を見るよりも明らかで……。やっぱり大学へ行こうと思いました」
中学の数学も分からないのに、高3の数学を独学
大学進学は現在よりもずっと難しかった。
その中でも非常に偏差値の高い大学『東京工業大学』を目標にして頑張ることにした。
「東京工業大学は数学の配点が高いです。当時は数学は全然ダメで、そもそも中学の数学が分かってない状態。その頃からやり直すのが良いかもしれないけど、今からやり直すと何年もかかる。だから、逆に来年の高校3年生の数学を自分で勝手に勉強しようと思いました」
書店に行って高3で習う微分積分の本を探した。なかなか良い本は見つからなかったが、例題の解答が詳しく書いてある本を一冊選び買ってきた。
その本を読み、問題はいまだ解けっこないので、例題の解答を見ていった。
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