国内の造船大手、ブラジル事業で狂った目算 石油会社・ペトロブラスの汚職事件で激震

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ブラジル造船事業に大きな期待を寄せたが・・・。写真は2013年に開かれた三菱重工連合とエコビックス社による提携会見の様子

現地では昨年、製油所の建設工事などに絡んで、大手建設会社などが契約の見返りに政治家やペトロブラスの社員らに賄賂を渡していたことが発覚。ペトロブラスの関係者や大手建設会社、プラントエンジ会社の幹部らが相次ぎ逮捕・起訴され、政界にも捜査の手が及んでいる。

ブラジルの新興3造船所が受注した掘削船(3社合計で16隻)は、いずれもペトロブラスの関連会社、セッチブラジル社が発注元。しかし、セッチブラジルも賄賂・汚職の疑いで捜査対象になり、設備投資資金の面倒を見るはずだった国立社会経済開発銀行などが渦中にある同社への融資を凍結。これにより、造船会社に対する前渡し金などの支払いが2014年11月から途絶えたため、各造船所は資金繰りに窮し、深刻な経営・財政状況に陥っている。

IHI、ブラジル関連で290億円の損失計上

こうした事態を受け、事業に参画している日本の重工・造船会社は、前2015年3月期決算で多額の損失計上を強いられた。中でも大きな打撃を被ったのがIHIで、関連損失額は290億円に上った。

損失の内訳は債務保証損失が194億円、のれん代を含む出資分の全額減損で76億円、関連工事損失で21億円。IHIは出資時の株主間協定でアトランチコスル造船所の借入金の一部を債務保証していた。「実際に金融機関から履行を求められたわけではないが、そうしたリスクも高いと判断し、債務保証の全額を損失引当処理した」(財務部長の望月幹夫・常務執行役員)と言う。

また、IHIは現地造船所から請け負う形で、掘削船2隻の居住区や船体ブロックを愛知工場で建造していた。現地造船所から工事代金の入金が途絶えため、建造工事は中断しており、同工事に関わる未回収金なども合わせて損失処理した。

エコビックス社に出資する三菱重工、名村造船所も「株式価値が著しく低下し、回復の見込みが立たない状況にある」と判断し、現時点での出資分全額を15年3月期決算で損失処理した。損失額は三菱重工が80億円強、名村造船所が21億円。2社と連合を組んで出資した非上場組の今治造船、大島造船所も同様の損失を被ったことになる。

唯一、エンセアーダ社に出資(出資総額は48億円)する川崎重工だけは損失処理を見送った。エンセアーダはまだ造船所を建設中の段階。川崎重工の説明によると、「造船所の主要株主である現地のオデブレヒト社が支援しているため、現時点では事業の継続に問題はなく、損失処理の必要性はないと判断した」と言う。

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