国内の造船大手、ブラジル事業で狂った目算 石油会社・ペトロブラスの汚職事件で激震

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ただ、同造船所もセッチブラジルからの入金が途絶えている状況は同じ。川崎重工はエンセアーダから引き受けた掘削船2隻の船体、推進プロペラ装置の製作を国内の工場で行っており、その入金も現在は途絶えている。国内工事分は大半がNEXI(日本貿易保険)の保険でリスクヘッジされているが、今のような状況が長引けば、出資金や工事代金の一部について損失処理を余儀なくされる可能性がある。

現地の3造船所は掘採船以外でもペトロブラス関連の仕事を数多く受注している。日本企業が経営参画した時点での受注残で見ると、IHIが関わるアトランチコスルはタンカー22隻、掘削船7隻。三菱重工連合のエコビックスはFPSO用の船体8隻と掘削船3隻、川崎重工のエンセアーダは掘削船6隻とFPSO用船体4隻をすでに受注済みだった。

このうち、セッチブラジルが発注元なのは掘削船のみで、FPSO関連やタンカーに関しては支払いが行われているという。ただし、掘削船は1隻700億円以上と契約金額がケタ違いに大きく、本来なら作業の進捗に合わせて支払われるはずの前払い金の入金が途絶えた影響は甚大だ。

3造船所に対するセッチブラジルの遅延前渡し金は、3月時点で総額500億円超に及ぶ模様。資金繰りに窮した現地の造船所は、当座を凌ぐために大量の人員を解雇。また、損失拡大を食い止めるため、アトランチコスルがセッチブラジルに対して掘削船7隻の受注契約破棄を通告するなど、事態は混迷を深めている。

場合によっては、法的整理の可能性も

IHIはブラジル造船関連で290億円の損失を被った(撮影:今井康一)

IHIの斎藤保社長は5月初旬の決算説明会で、「アトランチコスル造船所の再建見通しやブラジル側株主との協議、現地政府による支援などの環境整備次第では、当社も何らかの支援をしていく考えはある」としつつも、「ただし、そうした条件が整わない場合には、清算や民事再生も含めた処置の可能性もある」と厳しい見解を示した。

5月中旬には、IHIの斎藤社長、川崎重工の村山滋社長がみずからブラジルへ乗り込み、三菱重工の現法トップらとともに、ルセフ大統領と直接面会。現地造船会社の窮状を訴え、政府としての救済措置を要請したが、6月3日時点ではまだ支払いは再開されていない。

「ペトロブラス関連の仕事を大量に受注していくことで、ブラジルの造船事業は大きな成長が期待できる」ーー。つい2、3年前にそうした大きな期待を持って、現地企業と手を組んだ日本の重工・造船会社。予想だにしなかったペトロプラスを巡る賄賂・汚職問題の影響に翻弄され、各社は今、“ブラジル問題”に頭を抱えている。

渡辺 清治 東洋経済 記者
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