お家騒動であらわ「OpenAI」が抱える矛盾の正体 突然のトップ解任の裏に倫理と営利めぐる葛藤
一方、営利企業の設立後も、OpenAI全体の組織の“最上位”に位置づけられてきたのが、6人の役員で構成する理事会だ。2023年6月時点で、OpenAIはその組織構造について主に次のような特徴を挙げている。
「理事会は非営利団体に変わりなく、安全なAGI(汎用人工知能)の促進という義務を果たす必要があり、営利企業もこの使命に従う必要がある」「理事会の過半数は独立性を保っており、社外取締役はOpenAIの株式を保有していない。またCEOのサム・アルトマン氏も直接は株を保有していない」「AGIができたかどうかの決定権は理事会にある」
つまり、OpenAIはあくまで非営利団体として発足した当初の目的を堅持し、それを実現するために理事会の権限を強くしているということだ。
こうした構図から、今回のクーデターのような解任ができたことや、OpenAI Globalに巨額を出資するマイクロソフトですらアルトマン氏の解任を事前に知らなかったことが理解できるだろう。
理事会メンバー刷新後に残る懸念
解任を決めた当時の理事会は、創業メンバーであるアルトマン氏、ブロックマン氏、イリヤ・サツキバー氏のほか、社外理事3人で構成。2018年から参画しているQuora代表のアダム・ディアンジェロ氏、シンクタンクのランド研究所のターシャ・マッコーリー氏、そして2021年から参画しているジョージタウン大学安全保障・新技術センター戦略担当ディレクターのヘレン・トナー氏だ。
AI政策とグローバルAI戦略研究を専門とするトナー氏の参画時、OpenAIはリリースで「この就任は、テクノロジーの安全かつ責任ある展開に対する私たちの献身を前進させるもの」と記載しており、非営利組織らしくAIの安全性を重視した登用と受け取れる。
アルトマン氏の解任には、サツキバー氏と社外理事の計4人が賛成したとみられている。直近でもアルトマン氏は画像生成や音声合成などテキスト以外のAPIの公開や、開発者が独自のGPTを作成、販売できるマーケットプレースの開発を推し進めていた。ビジネス路線を突き進む同氏との間に生じた軋轢が、解任へとつながった可能性は高い。
一連の騒動を受け、理事会メンバーは抜本的に見直される予定で、元セールスフォース共同CEOのブレット・テイラー氏らの就任が決まっている。アルトマン氏の全面支援を行ったマイクロソフトの関与が強まることも想定される。
理事会の刷新で表向きは一件落着だが、営利色が強まれば、AIの安全性をいかに担保するかというジレンマはいっそう深まる。
世界を騒がせたお家騒動は、AIの開発とビジネス競争をどう両立させるかという根本的な問いを改めて投げかけている。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら