電子工学とコンピューター科学の博士号を持つ68歳の劉会長は、科学者であり経営者であると同時に外交官でもある。会長はインテルとベル研究所での勤務を経て30年前にTSMCに入社し、出世を重ね、現在はCEO兼副会長の魏哲家(シーシー・ウェイ)とともに5000億ドル規模の会社を経営している。
6月下旬、台湾北部の新竹市にあるTSMCのオフィスでニューヨーク・タイムズ紙のインタビューに応じた劉会長は、およそ3カ月に1度訪れるというアメリカ出張から戻ったばかりだった。
「われわれは、議会、商務省、ホワイトハウスの間でかなり良好な関係を築いている。私たちのことは知っていただいていると思う」と、会長は述べた。
誘致の努力が「CHIPIS法」につながった
これは少し控えめな表現だ。TSMCを誘致し、その生産施設をアメリカに誘致するための最初の努力は、アメリカの半導体産業を拡大するためのプログラムである「CHIPS法」の制定につながった。
TSMCは業界をリードする存在なため、同社が行うあらゆることに関しては、明白に取りうる第2の選択肢はない。製造の大部分が行われている台湾をめぐって衝突が起これば、TSMCのマイクロチップの供給がストップし、テクノロジー産業、ひいては世界経済に深刻な打撃を与えることになる。
苦労して勝ち取った技術的リードを守ることに力を尽くしている企業にふさわしく、TSMCのオフィスはシリコンバレーのキャンパスというより、政府の秘密研究施設のような雰囲気だ。
入社ゲートの横には、2010年以降、社内の厳格なセキュリティ・ルールを破ったために5人が解雇されていることを示す警告が掲げられている。違反事例の1つには、返信メールの件名を不適切に変更したことがあった。外線電話は禁止されている。最近は方針が緩和されたとはいえ、従業員は個人携帯にアクセスするために駐車場でランチを食べているという逸話を語る。