パナソニック「自動車部品切り出し」で鳴った号砲 社長肝煎りの事業ポートフォリオ改革が本格化

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PAS売却の1つ目の狙いは、開発競争が激化する自動車部品の領域で、今後の生き残りのために必要な資金調達能力を確保することだ。

自動車業界には100年に1度と言われる変革の波が押し寄せている。電動化はもちろん、自動運転やそれに連なる安全運転支援のための技術開発が活発化している。自動車部品の大手企業でも、そうした変化についていくために必要な投資額が膨らんでいる。

例えば、デンソーは2022年度からの10年間で研究開発や設備投資などに10兆円規模を投じると表明。ドイツのボッシュは2022年だけで120億ユーロ(約1.9兆円)を研究開発に投じたと発表した。

自動車部品専業ではないパナソニックの場合、同業他社レベルの金額規模の開発投資は難しい。しかも、ポートフォリオ改革に着手すると宣言したのと同じ経営説明会で、楠見社長は車載向けの電池に投資資金を集中する方針も明らかにしていた。

過去の説明会では明確にしていなかった戦略投資6000億円の使い道を、アメリカのEV大手テスラなどに供給している車載電池の領域に絞り込んだ。裏を返せば、それ以外の事業領域で巨額の投資はしないという意思表示とも受け止められる。

自動車事業を切り出す「もう1つの事情」

PASはグループから独立することで、他社からの出資を受けたり、上場して資金を調達したりしやすくなる。グループ内に残すよりも、自立して開発のための資金を調達できるようになったほうがPASにとってメリットがある。これが一連の再編で狙う1つ目のメリットだ。

ただ、パナソニックHDが車載事業を切り離すのは、そうしたPASへの親心だけが理由ではなさそうだ。

近年、自動車関連事業を本体から切り出す動きが電機メーカーの間で相次いでいる。背景には、自動車関連事業の利益率がほかの事業と比べて相対的に低く、全社の収益率改善を目指す電機メーカーにとっては足かせになっているという事情がある。

自動車関連事業の利益率が低いのは、大手自動車メーカー同士の競争が激しいことに加えて、メガサプライヤーや自動車メーカーからの価格低減圧力が非常に強いからだ。

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