戦場見てきた渡部陽一語る「戦争報道との接し方」 戦争がなくならない原因は「貧困と孤独」にある

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そして、愛する人を守るために戦わざるをえない、という現実もあります。目の前でわが子や恋人、妻が殺害された。殺人者はすぐそばでお茶を飲んだり、タバコをふかして笑ったりしている。

そんな残虐な状況、悲しみに直面した時、人は「戦ってはいけない」「やり返してはいけない」とわかっていても報復してしまうのです。極限状態になれば世界中どこの国の人でも同じです。この報復の連鎖で、戦争は繰り返し起こっているのではないでしょうか。

キーツで取材中の渡部陽一さん
ウクライナ・キーウ取材中の様子(写真:『晴れ、そしてミサイル』)

僕が戦場カメラマンになったきっかけでもあるルワンダ内戦では、ジャングルで少年のゲリラ兵に遭遇したのが大きな衝撃でした。

アフリカで繰り返されてきた民族間の衝突は、力を持った者が法律やルールを一切無視して、力だけでその地域を管理していく戦いです。そこでは戦いを制する手段として子どもたちを強制的に集落から奪い去り、麻薬や家族を殺害するという脅しで支配します。

狂気の中で理性を壊された子どもたちが、争いの前線に立たされている。それがアフリカにおける民族衝突の残虐な一面でした。

淡々とSNSで発信する理由

もちろん本当は誰も戦いたくない。けれど家族が傷つき、殺されないよう武器を持って戦わなければいけない。そこには教育や医療、人道支援、国際法といったものは届いていません。「戦ってはいけない」「子どもたちを犠牲にしてはいけない」といった世界の人々がスタンダードに思う感覚も存在していません。

アフリカや中東、中央アジアといった国々は一見、地図で見ればつながっているように見えます。しかし飛行機で飛んでいって取材ができる地域は都市部に限られていて、ジャングルや砂漠、山岳地域の中には何百年も前から変わらない生活習慣で暮らしている人たちがいます。

このような場所で、突如として石油やダイヤモンドなど富を産む資源が見つかったとき、長年続いてきた歴史と暮らしのバランスが壊れ、富の奪い合いから争いが起きます。これも貧困がもたらす戦争の現実であり、戦いに駆り出されるのは若者たちである、ということは共通しています。

――SNSでの発信にも力を入れられていますが、淡々と事実だけを書いている印象です。何か理由があるのですか。

若者たちに戦争の事実を知ってもらうため、X(旧Twitter)、Instagram、TikTokに加え、音声配信ブログのVoicyで情報を発信しています。

個人的な見解は述べず、数字やデータといった事実ベースの情報だけを淡々と伝えているのは、僕の発信を見た若者たちがその事実をきっかけに、自らの力で背景や歴史、状況の見通しなどを知ろうとする入り口にしてほしいからです。世界を知る“スイッチ”を押してもらうために、とにかく確かな情報だけを出し続けています。

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