「米中対立の狭間」で生きる日本に必要な「想像力」 「最悪のディストピアに至るシナリオ」を描く

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日本でも、ディストピアSFは書かれますけれども、政治学者が「論文」として、「ディストピアに至るシナリオ」を精密に書くということはまずありません。たとえ書いても、アカデミックな評価を得るということはあり得ない。でも、これについては、日本人はアメリカに学ぶべきだろうと僕は思います。

現に、1930年─1940年代の日本では、「すべての作戦が成功すれば皇軍大勝利」というタイプの「多幸症的」なシナリオを起草する陸軍参謀たちが累進を遂げて、「プランAが失敗した場合のプランB」を起案するようなタイプの人は「敗北主義者」として追放されました。そのせいで日本は歴史的敗北を喫したのです。

しかし、その教訓から日本人は何も学ばず、いまも「敗北主義が敗北を呼び込むのだ」というロジックは日本のいたるところで日々口にされております。ですから、日本はこの後高い確率で到来するはずのディストピアを効果的に阻止することはできないでしょう。当然ながら、「最悪の事態を想像したくない」人は最悪の事態が到来したときに適切に対処することはできないからです。

そして、まことに心痛むことですが、いまの日本の「指導層」を形成している方たちは、総じて「多幸症的」です。だから、五輪だ、万博だ、リニアだ、カジノだというような「これ一発で起死回生」シナリオに偏愛を示す。

不愉快な隣人たちとの共生

愚痴を言っても始まらないので、話の続きをしますね。

このアメリカの外交専門家たちの間では、少し前までは「米中二極論」が支配的な言説でした。超覇権国アメリカの全能に翳りが生じて、中国という「不愉快な隣人」と共生しなければならない……というシナリオが少し前までは「最悪の事態」と想定されていたわけです。

それがいささか風向きが変わって、このところは米中ロシア全部がこのあと国力が衰微して、世界は多極化するという「カオス論」が勢いを得ています。

でも、カオス論を語る人たちは別にそれほど絶望的な筆致ではありません。

たしかに、もう人類全体を主導できるような汎通的ビジョンは失われました。人類のあるべき未来を提示してグローバル・リーダーシップを執ることのできる国はもうない。

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