しかし本書を読んで、それではダメなのだと知った。経済の仕組み、中でも資本主義経済の仕組みを理解するには、やはり経済学の範疇の中で真理を伝えるしかない。そして、わからないやからを説得するためには、平易で説得力のある理論武装が必要なのだと。本書こそ、そのための“最終兵器”なのではないだろうか。
21世紀の今こそ読まれるべき憂国の書
本書は、なによりわかりやすい。経済学の書で必ず登場する数字や数式のマジックではなく、人間の行動原則や心理、さらには歴史的経緯が端的に示されているため、本質が鮮明に浮かび上がってくる。
たとえば、自由市場には「疎外」があると定義づけられる。疎外という言葉が経済学に用いられていることに、私のような素人は驚くが、それが自由と対比して説明されると、「なるほど、つまり自由市場って、特定の誰かの思いどおりにならない(これこそを疎外と呼ぶ!)から“自由”なんだ」というパラドクスがすとんと腑に落ちる。
こうした小室氏独特の説得が、随所に散りばめられている。本書は経済学に詳しくない人に、正しい経済学を学んでほしいという小室氏の願いが込められている。だから、単純明快にもかかわらず基礎知識としての必須事項が拾える仕組みにもなっている。
すなわち、小難しい“学”を振りかざすのではなく、世の中で起きている出来事を、しっかり洞察するために必要な道具として“学”を授けてくれるのだ。
本書に収録された著作は1997年(『小室直樹の資本主義原論』)と1998年(『日本人のための経済原論』)で発表されたものだ。それにもかかわらず、現在の日本が置かれている経済事情をまるで予言するような言及が随所に見られる。
アベノミクスを牽引するマネタリストらが陥るであろう陥穽(かんせい)や、財政赤字がもたらす破滅(ちなみに、本書が書かれたときの財政赤字はまだ500兆円だったが、それでも小室氏はもう破産していると強く訴えている)、政府による市場介入の愚、などなど―。
本書で鳴らされている警鐘は、21世紀の今、焦眉の急となって我々に迫っている。本書で経済の仕組みを理解し、納得したうえで、日本の未来を共に語ろうではないか。
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