「ハイテク封建制」誕生の地「シリコンバレー」実録 自家用飛行機で環境問題を語る現代の「聖職者」

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アメリカの成人の3分の2近くが、フェイスブックやグーグルを通じて情報を仕入れ、ワシントン・ポストやタイムといったメディアも買収されるに至って、大衆は彼らのツールを使って生活し、彼らの手のひらの上で情報を集める実質的奴隷状態に置かれている。

その結果、一握りのハイテクエリートが自転車操業の生活を余儀なくされる労働者と大量のギグ・ワーカーを支配するという寡頭支配の構造が生み出されることになった。テックオリガルヒが支配するハイテク企業に、労働組合のある会社はほぼ皆無という現実がそれを物語っている。

プライベートジェットで環境問題を論じる意識高い系

著者は、現代の先進諸国に見られる格差の拡大と、格差の固定化を中世の封建制になぞらえている。

封建時代には、エリート聖職者と貴族が権力を分け合っていた。「貴族の権力は、教会が賛美する宗教と慣習の助けを得て正当化された」。

現代の封建制の権力者は、一握りの支配者と、有識者と呼ばれるコンサルタント、大学教授、メディア関係者などのオピニオン・リーダーたちである。彼らこそが、中世の封建制を下支えしたエリート聖職者の現代版というわけである。聖職者は確かに、貴族の行き過ぎをたしなめ、貧民に対する救済の手を差し伸べるなどの一定の役割を果たしたが、それは同時に封建制の瓦解を食い止める補完的な役割でもあった。

現代の聖職者である有識者たちは、聖書に変わって科学技術を背景に存在感を誇示しており、プライベートジェット1500機でダボスに乗り付けて、環境問題を論じる。しかし、この意識高い系文化人たちが、自分たちの生活を脅かすような過激な行動を支持することはない。

そして、中世の封建制の下で、貴族にも聖職者にもなれなかった平民(第三身分)に相当する膨大な数の人々を、ヨーマン(独立自営農民)と労働者階級になぞらえている。つまり、中小企業経営者と労働者階級である。おそらくは、私などは現代のヨーマンの地位にあるのだろう。

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