「ハイテク封建制」誕生の地「シリコンバレー」実録 自家用飛行機で環境問題を語る現代の「聖職者」

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私と私の仲間がオフィスを構えたのは、サンノゼ市の中心部にあるベンチャー支援のためのNPOが運営しているビルの中で、同じオフィスには、インドや中国・韓国、そして日本のスタートアップ企業が、アメリカにおけるビジネスチャンスを狙って日々奮闘していた。

そのNPOには、サンノゼ市、サンノゼ州立大学、地元のIT企業が寄付を行っており、有数のベンチャーキャピタリストやエンジェルと呼ばれる個人投資家たちが出入りしていた。そこにいる誰もが、第2、第3のアマゾンやグーグルになるチャンスを窺っていた。

2004年ごろになると、早くもITブームに翳りが見え始め、新しいブルーオーシャンとしてバイオベンチャーが注目を集め始めた。

2000年のオフィス開きには、IT企業に入社したり、自分で起業したりして夢を膨らませていた者たちが参加したのだが、私のオフィスの5周年記念のパーティーに再び集まったメンバーの多くは失業して、新しい職探しと、人脈作りに奔走している様子だった。

寂しいアメリカ人の夢と諦め

シリコンバレーは、1980年代の製造・組立・輸送・顧客サポートによって「成長と公平性が両立」する時代を経て、ソフトウェア産業中心のハイテクの中心地になり、さらに2005年以後はバイオベンチャーが集積する都市へと変わっていった。

そして、その都度、工場労働者や中間管理職は失業を余儀なくされ、階級間格差が拡大した。2010年、現地のオフィスを閉鎖するために降り立ったときに私が目にしたのは、シリコンバレーの玄関口であるサンフランシスコ国際空港の周囲にたむろする多くのホームレスだった。

私は、極端な貧富格差と、経済的上昇のために、わずかな座席を争ってジョブホッピングを続けている若者たちの姿を見て、映画評論家の川本三郎さんが言っていた「寂しいアメリカ人」という言葉を思い出していた。

本書「第II部 寡頭支配層」の最後に著者はこう書いている。「いまこそ自問自答すべきは、テックオリガルヒが考えているような、階層化が進み、社会的流動性が滞り、中央でプログラミングがなされるような未来が、私たちの望む未来なのか」。

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