「ハイテク封建制」誕生の地「シリコンバレー」実録 自家用飛行機で環境問題を語る現代の「聖職者」
「アップルの驚くべきストーリーが象徴するように、かつてのシリコンバレーは、郊外のガレージからテック企業が誕生するといった草の根イノベーションの中心地であった」と著者のジョエル・コトキンは述べている。
2000年の時点では、シリコンバレーで草の根イノベーションの伝説として語られていたのはビル・ヒューレットとデイブ・パッカードという2人のスタンフォード大学OBがパロアルト市のガレージで始めたHP社であった。
ヒッピー文化から「テックオリガルヒ」へ
当時、HP社の社長はカーリー・フィオリーナだったが、歴代の社長は、ランチのときに社員食堂で社員と同席するといったことが普通だと言われていた(実際はどうだったかよくわからないが)。
HP社や、マイクロソフト、アップルといったITベンチャーは、ヒッピー文化をビジネスの世界に持ち込むようにして、自由で制約の少ない企業文化を作り上げ、創業者たちはヒーローになった。彼らに憧れる多くの若者たちがそれに続いた。
しかし、今はHPは伝統的なコンピュータ製造会社の1つでしかない。UNIXコンピュータの世界で、トップランナーだったサン・マイクロシステムズは、その後データベースソフトのオラクルに買収され、事実上消滅してしまった。
いつの間にか、伝統的なスタートアップ文化は、圧倒的なリソースと市場独占率を持つアマゾン、グーグル、アップル、フェイスブックといった巨大企業に踏み潰されてしまっていた。いくつもの優秀な技能を有するスタートアップ企業こそが、ジャイアントになった巨大テック産業の餌食になった。
本書の著者は、こうした富を独占するに至ったテクノクラートを、少人数による寡頭支配を意味するオリガルヒの現代版という意味で、「テックオリガルヒ」と呼んでいる。
彼らは、「有意義なコミュニティ」を構築する取り組みに熱心で、地球環境の保護にも積極的で、一見社会意識の高い進歩主義的な見識を披歴するが、社会全体の経済成長や、労働者の社会的上昇についてはほとんど語ることがない。
自分達の地位と引き換えに、社会に貢献することよりは、「新しいテクノロジーが人間の進化の後継者であるという技術決定論」を信奉している。
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