迷惑行為続出「廃墟ホテル」撤去が難しい複雑事情 白樺湖の廃墟でYouTuberの撮影や肝試しなども
ホテル山善の解体は膠着するかと思われたが、思わぬところから援軍が現れた。2021年1月に成立した2020年度第3次補正予算で、観光庁が景観改善のための廃屋撤去を支援する補助金を創設したのだ。
2020年に始まった新型コロナウイルスの流行で、全国の観光地は大きく傷んだ。観光庁は同補正予算に国内旅行の需要喚起に向け「Go Toトラベル事業」の予算1兆円を計上したのに加え、観光地の施設改修や廃屋撤去にも550億円の予算を盛り込み、跡地の観光目的での活用を前提に、廃屋撤去に最大で費用の2分の1、1億円を補助することにした。
それまで民間の建築物は自己責任で撤去するのが原則で、行政が代執行するにも倒壊の危険があるなど強い大義名分が必要だった。観光庁は廃屋撤去の補助金導入について、「コロナ禍によって全国の観光地が面的にダメージを受けた。それまでは国費で廃屋撤去を支援するスキームはなかったが、短期集中的に観光地を再生し、地域の魅力を高めるために効果があると判断した」と説明する。
「負の遺産」の処理が進み、成長の芽も
地元の観光地域づくり法人(DMO)「ちの観光まちづくり推進機構」が申請したホテル山善本館の撤去事業案は事業初年度の2021年6月に採択され、事業費の半分(約1億円)を観光庁が補助し、残りを地元が負担。数カ月の工事を経て2022年夏に本館が取り壊された。
2020年秋に首相官邸で開かれた観光戦略実行推進会議に宿泊施設の代表者として出席した矢島社長は「廃屋解体や公共施設の改修など、民間と行政がお見合いしてなかなか手を付けられないところに公的な補助があれば助けになると訴え、国もその重要性を認識した。
白樺湖が初年度に補助金を得られたのは、地域が時間をかけて廃屋撤去の課題を整理しており、財産区が2019年に南館の解体にこぎつけていたことが大きかった」と振り返った。
「負の遺産」の処理が進む中、再生の芽も育ちつつある。矢島さんの小学校の同級生で、元スキー選手の福井五大さん(40)は2019年に約20年ぶりに白樺湖に戻り、両親からペンション「リトルグリーブ」とレジャー事業を継ぎ、新たにアウトドアショップをオープンした。
スキー選手として世界各地を転戦するうちに「四季がはっきりしていて、夏は水上スポーツ、冬はウインタースポーツ、年間を通してマウンテンバイクやランニングも楽しめる。アウトドア愛好家にとってこんな恵まれた場所はどこを探してもない」と家族での帰郷に踏み切った。
家族経営のペンションはバブル崩壊後も大きな打撃を受けることがなく、「年末年始や夏の繁忙期にだけ手伝いに帰ってきていたので、忙しいという記憶しかなく、白樺湖が寂れているとはまったく感じていなかった」(福井さん)。
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