「あんなに興味深くて、あれほど悲しい病気は他にないと僕は思っています。7年前に閉鎖病棟で一緒に過ごしていた人たちのほとんどが何らかの理由ですでに亡くなっているはずです」
大阪市内の喫茶店で、公務員の山本直人さん(仮名、45歳)と専業主婦の和美さん(仮名、47歳)と向き合っている。直人さんは白Tシャツに四角いメガネ姿。いかにも真面目そうだけど、完治はしないという病の影響なのかどことなく哀愁が漂っている。
一方の和美さんは姿勢が良く、明るい色に染めたショートカットと青いブラウスが似合う。はつらつとした雰囲気の女性だ。4年前の結婚以来、禁煙と直人さんの美味しい手料理のおかげで少し太ってしまったと笑う。
東大中退という経歴の持ち主
直人さんは東大中退という経歴の持ち主だ。学業に価値を見いだせずに東大を退学したが、「慶応義塾大学に入り直した」という謎の嘘をついて関西で暮らす親から学費をもらい続け、都内のマンションでネットゲームと酒に浸る20代を過ごしたと振り返る。
「子どもの頃からオタクで、人と話すことが苦手でした。でも、父のようにお酒をたくさん飲むと明るく振る舞えて、友だちも恋人もできることに気づいたんです。あの頃はまさに浴びるように飲んでいました。1日でウイスキーのボトルを2本も空けてしまうぐらいです。飲みすぎるとアルコール依存症になることは誰も教えてくれませんでした」
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