「薬の治験」で大量改ざん、組織ぐるみ不正の唖然 治験支援会社で最大123件の違反行為が発覚

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メディファーマのような治験の支援業務を行う会社は治験施設支援機関(SMO)と呼ばれ、製薬メーカーや、製薬メーカーから薬の治験を任された医療機関から業務を受注する。

メディファーマの省令違反に関する厚生労働省のリリース
メディファーマの省令違反に関する厚生労働省のリリース。違反行為は最大123件に及ぶという(記者撮影)

メディファーマは従業員数が約50人と、SMOの中では小規模の会社だ。SMOの市場は大手数社が「8~9割のシェアを占める」(メディファーマ広報)といい、メディファーマの不正が業界に与える直接的インパクトは限定的だろう。

しかし医薬品開発に関わった経験のある製薬企業の社員は、今回の不正を「氷山の一角で、他社でも十分ありうること」とみる。

実際、2019年にはエムスリーグループの一角でSMO大手のノイエスでも、同様の不祥事が発生した。治験参加者が入力すべき情報を、治験参加者の状態を十分確認しないまま従業員が入力する”なりすまし”ともいえる行為や、時間が規定されている採血や服薬について、本来実施された時間とは異なる時刻で記録するといった行為が発覚している。

医療機関から頼られる存在だが…

そもそもSMOは、治験のルールを定めた国のGCP省令が1998年に厳格化され、治験に関わる業務や手続きが複雑化したことをきっかけに登場した。大規模病院で実施できる治験数が限界を迎え、中小医療機関や診療所などでも治験が行われるようになり、煩雑な作業を専門に請け負うSMOの需要が広まった。

治験参加者(被験者)募集から細かな業務まで請け負うSMOは、人手不足が深刻化する医療機関にとっても、頼もしく便利な存在だ。

治験を行うにはまず、被験者を確保しなければならないが、日本は薬の開発がさかんなアメリカなどに比べて被験者を集めにくいという問題を抱える。医療費が高額なアメリカでは、治験で新薬が投与されることを治療手段としての「チャンス」ととらえる向きもあるのに対し、日本は国民皆保険制度があるため、こうしたメリットを見出しづらいからだ。

一方、被験者を1人でも多く集めようとしたことが、メディファーマの不正の遠因となった可能性もある。

例えば呼吸機能の弱い患者を集めなくてはならない治験では、被験者を絞り込む際の検査でわざと息を弱く吐き出すような指導をしていたという。「被験者が入れば入るほどお金がもらえる」(製薬メーカー社員)というSMOの収益構造も、こうした不正を誘発した理由の1つと考えられる。

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