「薬の治験」で大量改ざん、組織ぐるみ不正の唖然 治験支援会社で最大123件の違反行為が発覚

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一連の不正からは、新薬の承認取得を急ぐ製薬メーカーと医療機関の間で板挟みとなる、SMOの難しい立ち位置もうかがえる。

薬は特許品のため、主成分となる物質の特許を取得してからいかに早く治験を行い、世に出せるかによって、大きく価値が変わってくる。「治験が1カ月遅れるだけで、数千万~数億円単位の損失となる」(業界関係者)との見方もあるほどで、治験を実施する現場に対する製薬メーカーからのプレッシャーは大きい。

メディファーマが行っていた違反行為の中には、医師が受講すべき治験の説明動画を、メディファーマ社員が代理で視聴していたケースもあった。メディファーマ広報は「代理受講は独自の判断で、過剰なサポートだった」とするが、多忙な医師への“忖度”が働いた可能性も否定できないだろう。

「性悪説にのっとった対応」も必要

一般的に治験の監督責任は製薬メーカー側にあるとされ、薬の審査・承認を行うPMDA(医薬品医療機器総合機構)も、定期的に治験を行う医療機関を査察している。ただ、ある製薬メーカーの社員は「データが手入力の場合、体重などのごまかしは簡単に行うこともできる。現場の査察も表面的調査で、不正を見つけるのは難しい」と明かす。

制度上の課題もある。GCP省令は細かな基準こそ定めるものの、治験を実施する医師やSMOが順守しなかった場合の罰則はない状態だ。前述のノイエスに対しても、厚労省による行政処分などは下されなかった。

メディファーマが不正を続けてきた理由の解明はこれからだが、現行のルールでは再び同様の事例が起こってもおかしくない。厚労省の担当者はメディファーマの件を受けて「性悪説にのっとった対応の議論も必要だ」と話す。

こうした不正行為は薬の信頼を損ねるだけでなく、治験に対する忌避感をさらに高めることにもつながりかねない。治験が滞れば、日本から新たな薬が生まれる可能性を狭めることにもなる。

メディファーマ個社の問題と片付けず、不正を防ぐためのルール見直しなど、行政主導での対応が求められる。

兵頭 輝夏 東洋経済 記者

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ひょうどう きか / Kika Hyodo

愛媛県出身。東京外国語大学で中東地域を専攻。2019年東洋経済新報社入社、飲料・食品業界を取材し「ストロング系チューハイの是非」「ビジネスと人権」などの特集を担当。現在は製薬、医療業界を取材中。

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