海外移転と雇用問題が長期的には最も重要
第3のカテゴリーは、極めて重大であるにもかかわらず定量的な把握が現時点では難しいものだ。
最も重要なのは、生産拠点の海外移転である。これは円高によってすでに昨年秋から顕著に生じている。10年10~12月期の海外設備投資は、対前年比45・7%増という驚異的な値になっている。これは主として円高による影響である。すでに日本の製造業は、怒濤の勢いで生産拠点の海外移転を進めているのだ。しかし、震災後の状況に関しては、現時点で得られるデータが極めて少ない。企業経営者の会見やインタビュー記事などから、企業の意向の一端がうかがえる程度だ。
上で述べた電力供給の制約やコスト上昇によって、海外移転が一層加速する可能性が極めて高い。また、復興投資の増加で金利が上昇すれば、国内での工場再建は不利になる。金利上昇が円高をもたらせば、さらにその傾向が強まる。
これまでの日本の中核産業であった製造業が海外に移転してしまえば、深刻な雇用問題が発生する。国内の雇用を維持するために、製造業に国内にとどまってほしいと要請することはできない。民間企業に雇用の責任を負わせるわけにはいかないのである。
したがって、製造業に代わって雇用を生み出す産業を作り出すことが、どうしても必要だ。それがいかなる産業になるかは、日本経済の命運を決める重大なポイントである。
これまでも、製造業の雇用は減少を続けてきた。問題は、製造業からあふれる雇用を受け入れる受け皿としては、小売業、飲食店などの生産性が低いサービス業しかなく、そこでパートタイム形態の雇用が増えたことである。このために、全体としての給与水準が低下し、日本経済の所得が低下したのである。
生産性の高いサービス産業を作ることは、これまでも必要とされていたことだが、それが一刻の猶予も許されない緊急の課題となった。
※長らくのご愛読ありがとうございました。次回から新連載『震災復興とグローバル経済--日本の選択』が始まります。ご期待下さい。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2011年6月4日号)
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