円安がさらなる貿易赤字と円売りを招くカラクリ サービス収支に透ける製造業のグローバル化
いずれにせよ、上述したような、「産業財産権の黒字が増えて、海上貨物の赤字が増えている」という構図からは、日本が単に原材料を輸入し、国内で生産し、海外へ輸出するというシンプルな加工貿易から撤退しつつある状況が読み取れる。
その代わりに、海外で生産した財を海外で販売したり、第三国向けに輸出したりする世界全体を巻き込んだサプライチェーン体制を組成している様子が読み取れる。
円安による「好循環」は想定すべきではない
こうした実情を踏まえれば、円安が製造業にコストメリットをもたらし、海外への輸出数量を押し上げ、国内経済に生産・所得・消費の好循環をもたらすという伝統的な波及経路をもはや想定すべきでないこともよくわかるだろう。
例えば、上述の議論を踏まえれば、海外生産拠点から受け取るロイヤルティーは円安で膨らみやすいが、海上貨物サービスへの支払いも円安で膨らみやすい状況が推測される。
むしろ、筆者がこれまで議論してきたような国際化されたサービス取引(例えばデジタル取引など)の存在を踏まえると「円安で支払いが増える」という事実から、円売りは増えそうなイメージもある。
伝統的な貿易収支への影響について言えば、円安が輸出を押し上げる構造がもはやない一方、円安で輸入が押し上げられる構造はしっかり存在しているため、やはり円安は赤字拡大に直結しやすい状況が想像されるし、事実、過去2年弱はそうなっている。
サービス収支を詳細に分析することで、近年の日本経済が経験している構造変化を深く理解し、また、為替需給の変遷も把握することができる。
毎月のアメリカ雇用統計やFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)の「次の一手」など、日米金利差の拡大・縮小に直結する短期的な材料も当然重要だが、自国通貨の需給環境を包括的に理解する助けになる国際収支は、今も昔も円相場の中長期見通しを分析する立場から最重要の計数と言える。
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