円安がさらなる貿易赤字と円売りを招くカラクリ サービス収支に透ける製造業のグローバル化

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製造業の生産拠点は海外へ(トヨタのチェコ工場、写真・Bloomberg)

長引く円安の理由を理解するうえでは、日米金利差拡大という論点に終始するだけではなく、「円の需給構造があらゆる面で変化を強いられている」という論点も理解する姿勢が重要になっていると筆者は考えている。

円の需給構造変化を象徴するのは、約10年前から確認される貿易黒字の消滅だろう。

その背景は単純ではないが、輸出面では、①日本企業が海外生産移管を進めたことや、②そもそも日本の輸出品が競争力を喪失したこと、輸入面では、③東日本大震災を契機に原子力発電の稼働が停止したこと(≒結果的に一段と鉱物性燃料輸入に依存する電源構成に切り替わったこと)などが挙げられる。

製造業が消え、円安でも輸出は増えない

とりわけ、③が資源輸入国である日本の貿易収支の脆弱性を高め、円安や資源価格上昇によって需給が崩れやすい(貿易赤字が拡大しやすい)体質につながったという話は広く知られている。2022年以降の貿易赤字拡大も、基本的にはそうした論点に起因するものと理解される。

だが、円安で日本から海外への輸出数量が押し上げられるならば、貿易収支が一方的な悪化を強いられることもなく、2022年のような「悪い円安」論も噴出しにくい側面はあっただろう。

この点、①で指摘されるように、円安を起点として実体経済に好循環をもたらすことが期待される製造業の生産拠点が日本から消えてしまったことが、円の需給構造が円売りに傾斜しやすくなった根本的な原因とも考えられる。

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