不登校経験の運転士発案「スクール」何をやるのか 小田急開設、経験生かし「絶望しなくていい」

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また最近、ある小学2年生の子どもの保護者から「オルタナティブスクールを休みます」という連絡が頻繁に入るようになった。理由を尋ねると「(本来の)小学校に楽しく通えるようになったから」だという。その子は母親離れができず、ずっと母子登校をしていたのだが、AOiスクールに通うことが、母親と離れて過ごすきっかけづくりになったのだ。低学年の子どもの不登校に対して、オルタナティブスクールがこのような役割を果たせるという新たな”気づき”となった。

さらに、最初はAOiスクールという「場所」に来ることが目的だったが、帰るときに「また来週ね」と声をかけ合う子が増えてきたという。おそらく仲間と一緒に何かをやるのが楽しくなってきたのだろう。「子どもたちと社会の間に小さな”つながり”ができていく場面に立ち会えてうれしい。この事業を立ち上げて本当によかった」と話す別所さん、鷲田さんの表情は感慨深げだ。

AOiスクール 内部
スクール内で子どもたちは自由に過ごす(写真:小田急電鉄)

不登校「絶望することは全然ない」

政光さんは、今後の事業の方向性について、「まずはオンラインコースの開設を進める。現在、AOiスクールには、水戸から片道3時間もかけて通ってくれている子もおり、苦労をかけてしまっている。遠方に住む鉄道好きの子どもにも、広く門戸を開けるようにしたい。また、現在は小中学生のみを対象にしているが、将来的には高校生を対象とする通信制サポート校などにも参入したい」と意気込みを語る。

最後に、別所さんと鷲田さんに話を聞く中で、2人が共通して口にしていた言葉を紹介したい。

「不登校になったからといって絶望しないでほしい。僕らは、一度は引き込み線に入りましたが、今は本線に戻って、ちゃんと走っていますから」

2016年に不登校児童・生徒の教育機会の確保を進める「教育機会確保法」が制定されるなどし、世間における不登校への理解が進みつつあるとはいえ、「不登校になったら人生終わり」と思い悩む保護者の方々は、今なお多いと思われる。だが、2人の若い運転士は、必ずしもそうではないことを証明している。

不登校を推奨するつもりはないが、仮にそうなっても、学びの機会を得ることはできるし、自分がやりたいことを見つけることもできる。小田急がこの事業に取り組む究極的な意義は、大企業の発信力を生かして、こうしたメッセージを社会に届けることにあるように思う。

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森川 天喜 旅行・鉄道ジャーナリスト

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もりかわ あき / Aki Morikawa

現在、神奈川県観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員。旅行、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。メディア出演、連載多数。近著に『湘南モノレール50年の軌跡』(2023年5月 神奈川新聞社刊)。2023年10月~神奈川新聞ウェブ版にて「かながわ鉄道廃線紀行」連載開始

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