不登校経験の運転士発案「スクール」何をやるのか 小田急開設、経験生かし「絶望しなくていい」

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鷲田さんは、それまでずっと抑え込んできた鉄道愛をオープンにし、それを原動力に交通系の短大へ進学。その後、小田急に入社した。

2人の経験に共通しているのは、本当に好きなことに打ち込むことで気持ちが前向きになり、自分の進むべき道を見出すことができたということだ。そのためAOiスクールでは、あえてカリキュラムは定めずに、「子どもたちが知りたい、やりたいと思ったことをやってもらうようにしている」(別所さん)という。

AOiスクールで別所さん、鷲田さんが、子どもたちからのリクエストに応えて話す話題は多岐にわたる。たとえば、「時速100kmでホームに進入してきた電車は、本当に停車位置で停まることができるのか」という疑問を子どもが口にすれば、運転理論の減速度の計算式をホワイトボードに書き出すこともある。

AOiスクール 勉強の様子
運転理論の減速度の計算式を子どもたちに説明する様子(写真:小田急電鉄)

「もちろん、書いた公式を子どもたちが100%理解できるとは思わない。運転士がこういったことを勉強したうえで電車を運転しているということが、漠然とでも伝わればいい。もしかしたら、それがきっかけで数学を勉強したいと思う子どもが出てくるかもしれない」(別所さん)

何よりも大切なのは、プロの運転士が普段、業務で使っていることを、子どもたちとしっかりと向き合いながら伝える姿勢だ。この部分を大切にするために、別所さんと鷲田さんは、今も週1日は運転士として電車に乗務している。

事業としては成り立つのか?

このようなオルタナティブスクールの運営は、事業としての採算性はどうなのだろうか。事業を統括するデジタル事業創造部課長の政光賢士さんは、「事業としては損益分岐点に近い。都心の賃料の高い物件を利用するならば、相当に厳しい。しかし、この事業を始めてから、まだ1カ月だが、お金を稼ぐ以上の社会貢献ができていると実感している」と話す。

具体的には次のようなことがあった。スクールに通う子どもが、母親と一緒に別所さん、鷲田さんが運転する電車に乗りに来たときのこと。母親に「うちの子どもが、自分からどこかに行きたいと言ったのは、これが初めてよと言われた。その言葉に胸が熱くなった」(別所さん)。

AOiスクールの様子
スクールはカリキュラムを定めずに行っている(写真:小田急電鉄)
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