日本でも海洋資源開発のエンジニアリング企業の強化・育成を
03年に発足した前ルーラ政権は、高騰する1次産品を背景に高まる船舶需要を自国の造船業の復活につなげる政策を強力に打ち出した。自国建造にかかる低利融資制度(PROMEF)、造船所への政府完工保証、公的部門への国産比率規制導入などによって、国内造船業は活気を取り戻し、韓国、シンガポール、ノルウェー、中国といった外国造船も現在、進出が相次いでいる。
造船産業復活の動きに見られるように、ブラジル政府は、資源開発と国内産業振興を結びつける政策を進めている。200億バレルの原油埋蔵量が見込まれる岩塩層下プレサルの大海水油田開発を契機として、必要となる資機材の国産化を推進する機関(Prominp)を設立し、国内企業との対話の下に、外国直接投資や技術協力による内製化ターゲットとロードマップを詳細項目ごとに定めている。
現在輸入している資機材のうち、内製化可能な資機材をサーベイしていく仕組みを作っている。造船でいえば、船体ハルの組み立て建造を行うヤードは整いつつあるが、設計と舶用資機材に関しては、国産化は依然として大きな課題であり、日本企業としては、ビジネスチャンスでもある。
長引く造船業低迷で逼迫する人材
長期にわたる造船低迷の間に、設計、部品調達、ブロック建造および組み立てのおのおのの場面で、技術不足と人材不足がボトルネックとなっている。実際のところ、老骨の元イシブラスのエンジニアや工員の指導に依存しているところが大きい。EASに限らず、他の造船所においても、現場を指導監督して支える、イシブラスの日本人OBスタッフの存在がある。
労働集約的な造船業で不足する熟練工員をどのように育成調達するかも課題である。外国人への労働ビザ発給の厳しいブラジルで、出稼ぎ帰りの日系人が高給で迎えられるのはかかる事情からである。EASでは、出稼ぎ帰りの工員は、すでに約200人に及ぶとのことである。
海洋資源開発設備の建造では、韓国やシンガポール、最近では中国もFPSO(浮体式海洋石油ガス生産貯蔵積出設備)や洋上掘削船の建造実績がある一方、日本ではブランクが続いている。ブラジルの今の造船活況に応じて、巨額の設備投資を実施してヤードを建設し、多くの労働者を抱えて、長期的に維持できるのかというのが、往時に辛酸をなめた日本企業の疑問であろう。
かつての石油輸入依存による貿易赤字構造は、原油輸出ポジションに転じた今のブラジルにはない。インフレターゲット、財政責任法、変動相場制は、現在のブラジルマクロ経済運営の根本規範として政権交代を超えて維持されており、通貨レアルの信用は維持される仕組みが確立している。かつて造船業を苦しめた通貨下落によるハイパーインフレーションの悪夢はもはや除去されたといってよい。それにしても、大型の設備投資をして投下資本を回収できるだけの受注が続くのだろうか。