メタがGAFAMの中で異質の「AI戦略」を貫く真意 コミュニティの会社ならではの独特なバランス

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Meta Connectを取材した筆者が感じたのは、先端技術への投資によりイノベーションに対応しつつも、自らの得意分野であるコミュニケーションサービスからは逸脱しないという、大胆さと慎重さのバランスを取った戦略だ。

2023年のテクノロジー業界でいちばん大きな話題となったLLMを用いたAIチャット技術では、メタは7月、自社で開発してきたLLMのLlama2のソースコードを商用利用可能な形で公開した(一部制限もある)。

その後、わずかな期間でLlama2はさまざまな開発者から評価を受け、特定のジャンルや商品、ブランド、サービスなどに特化した強化学習が施されたカスタムLLMを、Llama2をベースに開発して提供する事業者が急増している。

Llama2のオープンソース化以前にも、手書きしたイメージをAIでアニメーション化する「Animated Drawings」を2月にオープンソース化するなど、メタのAI部門はオープンソースを基本戦略としている。そのため画像生成AIのEmuも、いずれはオープンソース化していくと考えられる。

AIの開発成果をあえて公開する理由

なぜ競合他社が次世代技術イノベーションの中核に据えるAI分野で、開発成果を積極的に公開するのか。それはメタがコミュニティ作りを主軸とする会社であり、他のテクノロジー企業とは基本的な企業価値を異にしているからにほかならない。

Meta Connectで、CEOのマーク・ザッカーバーグが一連の新サービスや新製品、ビジョンについて語った後、同社CTO(最高技術責任者)のアンドリュー・ボズワースがインタビューに応じ、「オープンソース化は今のところ、われわれにメリットしかもたらしていない」と答えた。

メタ側がそう断言するのは、AI技術に投資を行いながらも、他のテック企業とは異なる方法でそれらを活用したいと考えているためだ。

典型的な例がある。Meta Connectで新たに発表された、MessengerやInstagram、WhatsApp上で利用できるAIチャットボットでは、各種著名人をモデルにした趣味嗜好が異なる28種類のAIキャラクターを用意。質問者との1対1のやりとりだけでなく、グループチャットの中にも参加させるようにするという。

例えば、”アニメ好きの修行中セーラー戦士”というキャラクターのAIアシスタントは、大坂なおみがモチーフで、ファンタジー世界のダンジョンマスターを務めるAIアシスタントはスヌープ・ドッグをモチーフにしている。ほかにも、複雑な推理物語が大好きな探偵、フィットネスや瞑想が大好きな情勢フィットワーカーなどだ。

メタはAIチャットを、質問に答えるだけの何でも知っている万能なAIチャットボットではなく、個性や得意分野を持つAIキャラクターにしようとしているのだ。コミュニケーションの相手となるチャットボットに個性を与えることで、より自然で自分のスタイルに合ったコミュニケーションをもたらし、また特定分野の知識に長けたチャットボットも開発できる。

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