発売日に20億売れた「名酒風味の珈琲」人気のワケ 田中角栄も飲んだ「茅台」の若者取り組む戦略
luckinが「全国で販売が再開された」と発表したのは10月6日だ。その日の午前に店舗で醤香ラテを購入した中国の大学生(20)は「結構甘くてお酒の風味もある。コーヒーって感じではない。話題だから買ってみたけど、コーヒーがそれほど好きではないので、また頼むかはわからない」と語った。
中国のSNSでは商品について否定的な意見も少なくないが、茅台を飲んだことがなく、コーヒーが好きではないZ世代の若者に商品を買わせている時点で、マーケティング的に大成功だと言える。茅台も「今回多くの若者が、人生で初めて茅台を体験してくれた」と手ごたえを感じている。
習近平の倹約令で戦略見直し
茅台がコラボしたluckin coffeeは2017年に創業し、店舗数でスターバックスを抜いて今年6月に1万店舗出店を達成した業界最大手だ。luckinはこれまでも日本の漫画作品「ジョジョの奇妙な冒険」や、アメリカのファッションブランド「ヴィクトリアズ・シークレット」などとコラボしてきたが、中国高級ブランドの代表格であり、保守的なイメージが強い茅台との組み合わせは世間を驚かせ、SNSが大沸騰した。
異色のコラボの背景には、Z世代の白酒離れに対する茅台の強い危機感がある。
日本では中国の酒といえば紹興酒を思い浮かべる人が多いだろうが、中国では白酒のほうが広く飲まれ、ウイスキー、ブランデーと並んで、世界三大蒸留酒とも呼ばれている(白酒が知名度の低さを補うために宣伝している側面もあるが……)。
1972年の日中国交正常化式典の宴席で、田中角栄総理と周恩来総理(いずれも当時)が茅台酒で乾杯したことから、日本でも認知されるようになった。訪中した際に茅台でもてなされたことのある日本人も多いだろう。
高級官僚や経営幹部、要人向けの「宴席御用達」「贈答品」というイメージが定着している茅台は、2010年代以降、何度か逆風を経験した。
習近平氏が2013年に国家主席に就任し浪費を取り締まる「倹約令」を発動したときには、高級アルコール市場の需要が急減し、茅台の売上高も低迷した。2020年以降のコロナ禍で会食が制限された時期も、白酒市場は大打撃を受けた。
だが茅台は出荷量を絞ることで「入手困難な高級酒」のブランドを維持し、エルメスやロレックスのように転売市場において高値で売れる投資商品のポジションを確立した。同年には時価総額がトヨタ自動車、コカ・コーラを超え、海外でも注目された
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