ところが日本では、「株式投資=賭博」のイメージが根強く、アメリカのように株価上昇が国民の幸せにつながるという認識は、まったくといっていいほどありません。それは家計部門が保有する金融資産のうち、現金・預金が54.2%、保険が26.2%を占める反面、株式は11.0%、投資信託は4.4%でしかないことからもわかります。
確かに、年金を通じて、個人資金が株式市場に流入している部分はありますが、これもちょっと問題があります。
アメリカでは、企業年金を運用している機関投資家の受託者責任を課す「エリサ法」の条文のひとつとして、「企業年金のリターンは市場と同等か、それ以上を達成しなければならない」と明記されています。実は日本でも、企業年金制度を整備するにあたり、エリサ法を参考にしたのですが、なぜかこの条文が抜け落ちているのです。
意図的にこの条文を外したのかどうかは何とも言えませんが、穿った見方をすると、日本の年金運用にかかわっていた人たちの多くが、運用のシロウトだったからではないかと思うのです。
このように年金も含めて、株価が上がれば日本人全員がハッピーになれるという構造が、どこにもなかったため、日本では資本市場を尊重しようという意識が薄かったともいえるのです。
資産所得倍増プランに足りない重要な視点
岸田文雄内閣が打ち出した「資産所得倍増プラン」は、そんなに悪い話ではありません。
「人口減少社会である、この日本でGDPを2倍に増やすのは非常に難しいことだが、金融資産から得られる所得を倍にするのは、それほど難しいことではないはずだ。なぜなら2000兆円もの個人金融資産があるのだから」と、岸田首相も考えたのでしょう。
これはかなりの前進です。過去、幾度となく景気が悪いときには、さまざまな景気対策が打ち出されたものの、このように国民が持っている金融資産を活用して、そこから所得を得て消費を活性化し、景気の浮揚につなげる、といったアイデアは、一度も聞いたことがありませんでした。それに過去20年、GDPが全く増えなかったことが、公共事業による景気対策が完全な失敗だったことを物語っています。
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