高いiPhone、高いホテルと「半世紀ぶり円安」の先 実質実効レートの調整経路は円高かインフレか

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実質実効レートの低位安定は過去のような「財」の輸出は促進しないものの、「サービス」(≒旅行)の輸出は促進する。旅行収支の黒字はもちろん、名目ベースの円高につながりうる円買いを含むが、上で見たようにインバウンド需要に応じた「インフレの輸入」も含む。

これによって、実質実効レートの修正は、名目ベースの円高ではなく、「インフレ率の高まり」の経路で進むというのが筆者の仮説だ。

「インフレで調整」なら円高は限定的

日本経済は歴史的に、電化製品や自動車などの「財」輸出が経済・金融情勢を規定してきたが、今後は観光という「サービス」輸出によって大きな影響を受ける体質に変わりつつあるのかもしれない。もちろん、観光だけでGDPにして約550兆円もの経済が決まるとは思わないが、これまでとは違う形で円安と実体経済の関係性を評価しなければならない時代に入っているのは間違いない。

振り返れば2005~2007年の円安局面は、「円安バブル」という呼び名が付けられていた。バブルというくらいだから、議論の余地なく「円安はよいこと」という時代であった。少なくともその時と同じ評価軸をもって円安を理解することはできないはずである。

今一度、話を実質実効レートの調整経路に戻せば、仮に「インフレ率の高まり」の経路を中心として調整が進むと割り切れば、名目ベースの円高は過去と比べれば限定的になる可能性が想起される。

もちろん、変動為替相場制ゆえ円安が常態化することも考えられないが、「インフレの輸入」が進むことで、名目ベースの円高が進まなくても実質実効レートの調整が進む状況になってきているという事実を念頭に置くだけでも、長期的な円相場見通しを立案するうえでは大きな手掛かりになるはずである。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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