高いiPhone、高いホテルと「半世紀ぶり円安」の先 実質実効レートの調整経路は円高かインフレか

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また、インバウンドに対する娯楽サービスの価格でも、これまで経験のない動きが見られている。京都の祇園祭では1席40万円のプレミアム観覧席が、青森のねぶた祭では100万円のVIPシートが、徳島市の阿波踊りでは1席20万円のプレミアム桟敷席が販売されたことが話題を呼んだ。各地の花火大会において有料観覧席が設置される傾向にあることも物議を醸した。

これらはインバウンド需要が増える中、観光資源を最大活用しようという合理的な経済活動の結果といえる。日本社会において、こうした現象にまだ賛否はあるが、日本人が通貨高を忌避して通貨安を欲し、結果として(希望したかどうかはさておき)観光立国という道を選んだ現状に照らせば、甘んじて受け入れざるを得ない傾向ではある。

こうした価格設定行動は「ぼったくり」ではなく、「需要に応じた値付け」として徐々に当然視される風潮が強まると予想する。

日本経済全体にとって重要なことは、そうした宿泊・飲食サービス業を起点とする財・サービス価格上昇の波が、そのほかの産業に波及するかどうかである。

現状、そこまで大きな話をできる段階にはないものの、上述のような事例を経て「財・サービスの無償提供は適切ではない」「『良いものを安く』はデフレの元凶」という通念が固まってくると、経済活動のさまざまな部分で値上げは起きやすくなるのではないか。結果的にインバウンド需要の増加が「インフレを輸入」したような構図にも見えてくる。

「名目ベース円高で調整」は機能不全

再三報じられている通りだが、名目為替レートに加え、内外物価格差も加味した実質実効為替レート(REER)は8月時点で1971年6月以来、約半世紀ぶりの安値まで下落している。長期平均(20年間平均)からの乖離率はマイナス33%に達しており、理論的に支持される平均回帰性向を念頭に置けば、不均衡の蓄積が極まったような状況にある。

円の実質実効為替レート

実質実効レートがここから長期平均に向けて調整する(円高に向かう)とした場合、①名目ベースで円高が進む、②日本のインフレ率が相対的に高まる、という2つの経路が考えられる(もちろん、両方でもよい)。

常々筆者が議論しているように、日本の対外経済部門を取り巻く環境が著しく変わっていることを思えば、「円安→輸出増→貿易黒字→円買い」という1973年以降の円相場で起きてきた調整経路「名目ベースの円高」は、ほぼ機能不全に陥っていると考えられる。

そうなると「インフレ率の高まり」の経路を辿って円の実質実効レートは上昇するしかないのではないかというのが筆者の以前からの主張だ。

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