■裏に隠された意図を想像してみる
「特別な豆や抽出方法を使ったコーヒーの味わい」という有形物だけではない。「抽出係のバリスタが独自の手法を実演しながら約3分間、来店客に説明する」と記事にあるように、「抽出の様子を見ながらの店員との会話」であり、「知識の習得」という無形の価値が含まれているのである。
飲料価格と価値の関係を考えてみよう。単に「喉の渇きをうるおす」という「中核価値」だけなら、ペットボトル入りのミネラルウォーターでこと足りる。価格は約100円だ。「おいしい」「炭酸でスッキリする」などの味やのど越しという「実体価値」が加わると、清涼飲料の150円という価格になる。50円分がプレミアムとして設定されているのだ。さらに特保飲料は体脂肪を燃焼しやすくするという「付随機能」としての要素を持っている。概ね価格は189円だ。ミネラルウォーターと147%の価格差があるが、それだけの価値が顧客から認められれば対価を得られるのである。
同様に、同じチェーン展開のドトールやベローチェのように「コーヒーを提供する」という中核価値だけであれば、150円~200円。店内空間という「実体価値」を提供することによって、スタバはショート300円、トール340円の対価を得ている。そして、スタバはさらに、「店員との会話でコーヒーの知識を習得できる」という付随機能を持ち込み、トール560円という対価を得る戦略に出たのである。
ほかにも狙いはいくらでも想像できる。例えば高価なコーヒー豆の購入につなげたいのかもしれない。コアなコーヒーファンにとっては、豆の違いやひき方を直接教わる機会は貴重だろうし、つい豆を買う気にもなるだろう。ロイヤリティーの高い顧客を増やす施策の可能性もある。顧客接点を多くして、リレーションシップを築ければ、いわゆる「街の喫茶店」のように、リピーターを獲得できる。
こういう面白い試みの時は、とにかく頭を使い、観察もして、仮説を立てるのが、ビジネスを学ぶ上での醍醐味でもある。
また、この試みは、スタバの“自分探し”を見ているようでもある。
マクドナルドが店舗をおしゃれにしたり、コーヒーを100円で提供するなど、カフェとしての機能を付随するようになり、コンセントまで準備し、もはや「居心地の良さ」というバリューはデフレ状態にある。スタバの優位性とは何か。その模索が続いているのは想像に難くない。
どのような顧客に対し、どのような価値を提供するのか。そして、そこからどの程度の対価を得ようとするのか。また、「客数×客単価」の結果である「売上」をどのように設計するのか。恐らく、スタバの新展開は従来と異なる別のモデルを模索する実験だ。その成否しばらくウォッチしてみたい。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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