「4℃」の匿名宝飾店、秀逸施策の裏のイジられ史 「SNSでネタ扱い」されてきた企業の挽回策?

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ヴァンビさんは2021年末、チャンネル登録者数に応じて、「ヴァンゆん」の相方・ゆんさんと結婚すると題したライブ配信を行った。しかし、事前の企画説明がされていなかったため、ゆんさんは困惑。視聴者からはブーイングが飛び、「大炎上」となっていた。スパイダーメーンとして活動を始めたのは、それから半年ほどたってからとなる。

ヴァンビさんの場合は、アメコミヒーローの「スパイダーマン」に乗っかった形ではあるが、むしろ「便乗」だからこそ、より内容で評価される必要があった。また、正体を自分から明かすのではなく、それなりの成果を残す前に「身バレ」してしまうと、視聴者からの興ざめを招くおそれがある。そのリスクを背負ったうえで挑み、成功したことは称賛に値するだろう。

「本質」を見極めることの大切さ

ライトノベルなどでは「異世界転生もの」と呼ばれるジャンルがある。その筋書きは、ふびんな主人公が死んでしまい、別の世界での転生を余儀なくされるものの、前世での記憶や技術が重宝がられ、活躍の場を得る——といったパターンが珍しくない。ファンタジーと現実社会は当然違うわけだが、レッテルや色眼鏡を排した「本質」を見極める大切さは共通している。

匿名宝飾店のコンセプトには「ブランド名からではなく、ものを見て、自分の指や肌のうえで ジュエリーを好きになってほしい」「あなたの中で、もう一度デビューしたいから」といったフレーズがちりばめられていた。SNSでの風評を強く意識し、商品価値を再評価してもらいたいとの思いがうかがえる。

人は誰しも、変身願望を持っている。その手助けをしてくれるのが、ファッションだ。アクセサリーを身にまとう理由には、「いつもと違った自分」を演出したい側面がある。しかし、同時に「ホントの自分」も評価してもらいたい。素材のポテンシャルを引き出して、「いままでのイメージじゃない、自分らしさ」を醸し出す。匿名宝飾店が持つストーリーは、そうした欲求への「答え」を体現するものではないだろうか。

なお、今回のコラムでは「イジっていいブランド」と表現してきたが、本来そんな存在はあってはならない。企業そのものに感情はなくとも、そこで働く社員たちや、好んで買ってくれる消費者は、それぞれの思いを抱いている。法人も、また「人」だということを忘れてはいけないのだ。

城戸 譲 ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー

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きど・ゆずる / Yuzuru Kido

1988年、東京都杉並区生まれ。日本大学法学部新聞学科を卒業後、ジェイ・キャストへ新卒入社。地域情報サイト「Jタウンネット」編集長、総合ニュースサイト「J-CASTニュース」副編集長などを経て、2022年秋に独立。炎上ウォッチャーとして「週刊プレイボーイ」や「週刊SPA!」でコメント。その他、ABEMA「ABEMA Prime」「ABEMA的ニュースショー」などネット番組、TOKYO FM/JFN「ONE MORNING」水曜レギュラー(2019.5-2020.3)、bayfm「POWER BAY MORNING」などラジオ番組にも出演。政治経済からエンタメ、炎上ネタまで、幅広くネットウォッチしている。
X(旧ツイッター):@zurukid

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