「はぐれ者」北朝鮮とロシア接近に中国はどう動く 混迷に向かう北東アジア、矛盾する中国の戦略

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活発に見える中国外交だが、米中関係を進めれば中ロ関係が成り立たなくなるなど、これらの戦略は互いに矛盾、対立している。

そんな微妙な時期に、金正恩総書記がプーチン大統領と会談しウクライナ侵攻を礼賛したうえ、「ロシアとの関係は北朝鮮にとって最優先課題だ」と発言したのである。中国に踏み絵を踏ませるような金正恩総書記とプーチン大統領の対応を中国が快く思うはずもない。

はっきりしているのは北東アジア地域の国家関係の枠組みが変わったことだ。

数年前までは「日本・アメリカ」と「中国・北朝鮮」が向き合い、韓国とロシアが濃淡はあるものの距離を置く対応をしていた。

しかし、尹錫悦政権が誕生したことで韓国の姿勢が日米同盟に急接近した。8月に日米韓3カ国の首脳が「キャンプ・デービッド原則」で合意したことで韓国の路線が旗幟鮮明になった。

「百年に一度の変革期」

そして今回のロ朝首脳会談によって、対立の組み合わせは「日米韓」対「ロシア・北朝鮮」の色合いが濃くなり、中国がロシアに傾斜してはいるもののアメリカとの関係を無視できない微妙な立場となっている。

また、これまでは米中対立や朝鮮半島の南北対立と北朝鮮の核・ミサイル開発がこの地域の不安定要素だったが、そこに新たにウクライナ戦争への対応とグローバルサウス諸国との関係という地域を超えた要素が加わり、状況をより複雑にしている。

ただし、日米韓の関係は、自由、民主主義、市場経済など価値観や政治経済のシステムを共有しているため安定感があるが、中国、ロシア、北朝鮮の関係は当面の利害関係で結ばれている色彩が強い。そのため国際情勢によって容易に関係が変化する。実際、冷戦後を振り返っただけでも移り変わりが目まぐるしい。

ロシアと北朝鮮の関係がいつまで続くのか、アメリカとロシアの間で中国がどういう対応をしてくるのかを含め、今後の国際関係の構図を固定的に見ることはできないだろう。「世界は百年に一度の変革期を迎えている」という習近平主席の言葉は正しいようにみえる。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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