所得が1単位増加したときの消費の増加分を示す「限界消費性向」を年収別に計算すると、高年収層は低年収層よりも値が大きい。
1990年から2019年までの暦年データを用いて確認すると、低年収の家計(年収五分位1)が0.45だったのに対し、高年収の家計(年収五分位5)は0.57となった。これは、低所得層は生活に必要な消費(基礎的消費)の比率が高いため、収入の増減の影響を受けにくいことが要因である。
「賃上げで好循環」は生じにくい
コロナ禍でこの関係性はいったん崩れてしまったのだが(行動制限などにより可処分所得の水準に対して消費支出の水準が低くなった)、経済再開が進展する中でも、特に限界消費性向が大きい高年収層の消費水準が過去の傾向と比べて低いままである、という点がマクロ全体の消費の弱さにつながっている。
本来であれば「賃上げ」によって限界消費性向の高い高年収層ほど消費が増えていそうな局面であることを考えると、意外感もある。
むろん、現在は経済再開の過渡期であるため、もう少しデータの蓄積を待ちたいところだが、現時点ではコロナ禍で高年収層の消費の考え方が変わってしまった可能性が高いと言える。
例えば、コロナ禍で贅沢をできない状態がもたらされた結果、贅沢しない生活が定着してしまったとすれば、賃上げによる好循環は生じにくいだろう。
これまでの「将来不安」による能動的な貯蓄だけでなく、このような消去法的な貯蓄が進めば、強制貯蓄は一向に取り崩されない可能性もある。
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