PBRは1倍割れ、株主圧力高まる「テレビ局」の活路 放送以外の収益拡大へM&Aなどを模索するが…

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近年は、人気が根強いアニメへの投資も活発だ。この分野では、長い間アニメに投資を続け、「NARUTO」などの人気作品を持つテレビ東京が先行する。ただ、最近になって投資を拡大したテレビ局では、うまくいっていないケースも散見される。

TBSが2017年に買収したアニメスタジオ「Seven Arcs」もその1つ。2022年1月にも、同社に対して25億円の追加投資を発表している。

あるアニメ業界関係者によれば、TBSはこの25億円を活用して2年間のうちに、京都アニメーションやufotableに匹敵する制作スタジオにしようと考えていた。しかし、人気作『魔法少女リリカルなのは』(2004)などに関与したSeven Arcsの主力制作陣のほとんどはすでに会社に残っておらず、目標と実態の乖離に現場では困惑が広まっていたという。

コンテンツ・IP領域では、会社そのものよりもスキルや才能を持った人材に価値があり、人材の引き抜きも激しい。会社を買収しても、要となる人材が流出してしまうリスクも付きまとうため、同領域でのM&Aには慎重さが求められる。

「数を打ちながら勝ち筋を見つける」

東証がPBRの改善要請を出したこともあり、テレビ局に対する株主らの視線は今後いっそう厳しさを増すと予想される。

前述の通り、テレビ局はその事業特性上、大規模な放送設備を保有するなどといった固有の事情も抱える。株主提案や東証の改善要請に従って、資本効率ばかりを重視するわけにはいかないのも悩ましいところだ。

TBSの佐々木卓社長は「僕らはCMがなくても(報道を)続ける必要があり、停電になっても対応できる設備を確保するにはキャッシュも必要だ」と語る。こうした前提は他業界とは異なるため、株主にも理解してもらいたいという。

それでも、テレビ以外の新たな収益源の確保が待ったなしの課題であることは間違いない。TBSで戦略投資事業を指揮し、6月にやる気スイッチグループ副社長に就任した片岡正光氏は「今の時代は何がうまくいくかわからないので、数を打つことも重要。うまくいかないことを許容しつつ、(M&Aなどを通じて)新しい勝ち筋を見つけていく必要がある」と話す。

テレビ広告収入依存からの脱却と資本効率改善という、2つの難題をどう乗り越えるのか。現状はまだ、どのテレビ局も明確な解を見いだせていない。

髙岡 健太 東洋経済 記者

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たかおか けんた / Kenta Takaoka

宮崎県出身。九州大学経済学部卒。在学中にドイツ・ホーエンハイム大学に留学。エンタメ業界担当。MMTなどマクロ経済に関心。

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