1個1080円する「日本一のりんご」即完売の凄さ フルーツ生産者を育成するコーチの技【後編】

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当時、バイヤーになって2、3年目だったという石部さんにとって、工藤さんとの出会いは、果物づくりに対する情熱の注ぎ方、生き方の教えを超え、その後の石部さん自身の仕事観にも大きな影響を与えた。

「りんごの仕入れは、業界的に独特な仕組みがあって、生産者との直接取引が難しく、仲買人任せにしていました。簡単には手がつけられない。でも市場に入ってくるりんごが、あまりにも値段の割にものがよくないと感じていた。そんなとき、たまたま手渡しで工藤さんがやってきたんです。違いは明らかでした」

銀座千疋屋
老舗の高級果物専門店「銀座千疋屋」で仕入長を務める石部一保さん(写真:筆者撮影)

出会って間もないころ、石部さんは青森県で開かれた品評会を見にくるよう、工藤さんから誘いを受ける。

「品評会に集まるのはすでに選抜されているりんごで、そこに到達するだけでも相当なものです。中でも工藤さんのりんご園のある平川という地域はほかとは格段に違う。そしてそこからダントツに飛び抜けているのが、工藤さんのりんごでした」(石部さん)

少量ずつの定期の取引を経て2015年、「釈迦のりんご園」と銀座千疋屋による異例の本格的な直接取引が始まった。

「間に業者を入れるのは嫌だと言いました。ファックスやメールじゃダメだ。電話でやると。今から10年以上前で俺から見たら石部もまだこんなピヨピヨでしたからね。高をくくっていました。どれだけやれるのかって。ここ(銀座千疋屋)がダメなら日本はもうダメだって。でも石部は、やってのけたんですよね」(工藤さん)

「釈迦のりんご園」との取引が始まったことで、銀座千疋屋にあった色や形、大きさなどの目安となるりんご仕入れの「規格」という概念が取り払われた。

「すべて任せるという。うちがいいと思うものを出してくれと。いいのかよと思いましたけれど、結果的に(銀座千疋屋の)レベルを上げたのかもしれません。うちらが青森県から出さないと、ここのりんごは東京には行かない。とにかくうちにある最高級品を、銀座千疋屋に出すということになりました」(工藤さん)

「忘れられない味」のりんごを作る

そして2021年、工藤さんのつくる新商品のりんごが銀座千疋屋で売り出された。

「ラ・フランスのりんご版。はるかという品種で、小さく作って濃縮し、味を良くしようと考えました。袋をかけないことで斑点がつき、見た目は汚い状態になりますが、りんごの皮を極力薄くし、蜜を散らすように作ることで、甘さは25度にもなります。一回食べれば、どれだけすごいかがわかります」(工藤さん)

平均的なりんごの糖度は13度。工藤さんのりんごの糖度はそれをはるかに上回る。石部さんは、畑で初めて丸かじりさせてもらったそのりんごの味が忘れられないという。

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