1個1080円する「日本一のりんご」即完売の凄さ フルーツ生産者を育成するコーチの技【後編】
それから、「命をいただく」原点に立ち帰り、「りんごの木が喜ぶやり方で作ろう」と考え直した。ストレスフリーな栽培環境を目指し、土作りの根本から学び直し、研究と実践に没頭した。
「山菜を山で食べると美味しい。でも、畑で育てようとするとうまくいかない。なぜだろうと考えました。
山にある土には、微生物が生息する粘土粒子が豊富にあり、微生物の死骸を分解したものが、植物の栄養源となります。野山の植物が生き生きできるのは、この循環がうまくいっているからです。
この仕組みを、畑のりんごづくりでも再現できないかと考えました」。
「微生物のエサとなる肥料は、油粕、魚粕、骨粉、鹿の角など、分解スピードの異なる10種類以上の天然素材を配合してオリジナルのものを作ってもらっています。発酵や分解のスピードを1つひとつ調べて配合を変えています」
工藤さんは、これを自ら「釈迦農法」とよぶ。自然界の摂理にのっとた方法で試行錯誤を重ねるたびに、化学肥料や化学合成農薬を多用する一般的な栽培方法、農業指導の基礎を、ことごとく否定せざるをえない状況が生まれていった。
工藤さんは、教えを請う全国各地の生産者に勉強会やSNSなどを通してその成果を惜しみなく共有している。
50歳の工藤さんが勝負にでた
30年にわたる研究と実践でりんご栽培の「真理」に近づきつつあった2010年、50歳になった工藤さんはある「勝負に出た」。
「釈迦のりんご園」のりんごを携え、東京・銀座千疋屋本店を自ら訪れたのだ。
「それまでにりんご品評会でトップの座に上り詰めて力をつけ、城を築いてきました。だから次は銀座千疋屋だと。そこが日本一だって認識がありましたから、こっちからケンカを売りにいったようなもんですよ。全国でいちばんのりんごがある。そっちが使わないなら全部海外に出す。使う気はあるかって」
青森に戻ると、東京から後を追うように石部さんが農園に駆けつけてきた。膝を突き合わせ、りんご作りがなんたるかを、語り尽くした。
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