1個1080円する「日本一のりんご」即完売の凄さ フルーツ生産者を育成するコーチの技【後編】

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「はちみつをかじっている感じ。表現がうまくないかもしれませんが、歯茎が虫歯になるんじゃないかと思うくらいの感じたことのない甘さでした。見た目はきれいとは言えない。でも果実は呼吸している。衝撃的でした」(石部さん)

1個1080円のりんごが即完売

商品名は「釈迦」と名付けられた。店頭で、袈裟のような淡い白地の和紙をまとって、鎮座した。

「あれは嬉しかったですね。思いもよりませんでした。へー、こうやって表現するのかよって。銀座千疋屋は外観のよさを重視している。見た目がきれいじゃないから売るのは難しいだろうってどこかで思っていました。それでも石部はやってのけたんだよね。本当に感動しました」(工藤さん)

1個1080円、限定20箱。店頭に並ぶや否や、即完売した。

工藤さんが毎日欠かさず書き記すブログには、「銀座千疋屋」と題してこんな文章がつづられている。

2021/12/06 17:02
朝銀座千疋屋の石部さんから電話が鳴る
サンふじ30王林10ケースお願いします
はいありがとうございます
さっそく次の在庫を積み重ねていく
知り合いが千疋屋の店頭に並ぶりんごの写真を送ってくれた
(中略)
いつでも同じ味が楽しめるようにと最高の資材を投入し出来上がったりんご
霜の被害風の被害を耐え干ばつに耐えた
そして最高によくできたものしかそこにたどり着けないりんごたち
写真を見て可愛くて仕方なかった
銀座の一等地でみんなにかわいがってもらえよ
近くにはグッチ、エルメスと世界の一流のお店が立ち並ぶ
田舎者がお店を出せる場所ではない
そんな場所で飾らせてもらえる我が家の戦士たち
世界へ輸出するのが目標じゃない
世界からそこに買いに来るようにしたい
まだまだ夢の途中だ

現在、4代目となる息子・峰之さん(39)が父の背中を追いかけながら、品評会で全国第1席を獲得するまでになり、着々と腕を上げている。若い世代の生産者の育成にも力を注ぎながら、工藤さんには伝えたいことが山ほどある。

「若い奴にはいつも言っています。楽して生きようとするな、汗水たらせよって。20代、30代はいくら頑張っても認めてもらえない。成功してもまぐれだろう。40過ぎるとキラッと光るものが出てくる。50代からが職だ。50を目指して力をつけろと言っています。日銭を稼ぐなよ、いちばん苦しい時期を自分で作り出せ、と」(工藤さん)

つくり手と売り手がともに、互いを絶対に裏切らないための「真剣勝負」を仕掛け、自らを変え、進化し続ける現場がある。私たちは、そんな彼らの生み出す果実の恩恵に預かることができる。知って、考え、選び、贈り合うこと。実際に売り場で手に取るなど、私たちにもできる行動がある、と思える。 

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