栗山監督、10年以上見てきた私が驚いた「言葉の力」 日本ハムでもWBCでも共に過ごした捕手が明かす
実際、栗山監督の私に対する言葉のスイッチは「ピッチャーを任せる」ばかりか、打撃面にも及びました。私は2011年ごろまであまり打てていませんでした。
「ツル、オレはお前の打撃も信用しているんだよ。あれだけバットにコンタクトできる能力があれば、もっと数字を残せる。今年は2割8分を打ってもらうよ」
「代打を出さないから逃げられないよ(笑)。覚悟を決めてバッターボックスに立ってくれ」
「潜在能力を顕在化させる」スイッチ
シーズン前のオープン戦でも、遠征時の食事会場でも、顔を合わせるたび、ことあるごとに繰り返すのです。「ツル、今年は2割8分だからね」って。聞いていた当時の福良淳一ヘッドコーチ(現・オリックスGM)がさすがに言ったものです。
「栗山監督、ツルは2割8分、難しいですよ」
「福良さんも言っているように、栗山監督、たぶん無理です」
「でも、オレは信じている。お前は2割8分打つ!」
そんなやりとりがあったことを私は今でも鮮明に覚えています。
2012年、斎藤佑樹投手が初完投勝利した開幕の西武戦で私はスタメンで2安打。そのカードの3戦目、岸孝之投手(現・楽天)のスーパーピッチングの前に0対1で敗れました。それこそ吉川投手が投げた試合です。終盤、私に打席が回ってきました。
(あれ、代打じゃないのかな?)
ネクストバッターズ・サークルで打順を待っていた私は、半信半疑でキャッチャーのレガースを外して打席に向かったのです。
(「代打を出さない」って、本当だったんだ。もう、打つしかないじゃん)
2ストライクに追い込まれましたが、外角のチェンジアップに手を伸ばした打球は、遊撃・中島宏之選手の頭上を越えるレフト前ヒットになりました。
そのシーズンはリーグ優勝。打撃に自信が持てた私の打率は2割そこそこから.266まで上昇。2割8分には届かなかったものの「ベストナイン」に初選出されたのです。
今回のWBCで栗山監督が村上宗隆選手に代打を出さずに打たせた状況とは比べようもないですが、「信じてもらえたこと」は同じです。私の打席の場面、代打が出されていたらどうなっていたでしょうね。
一方で私は「自分で自分の限界を作ってはいけない」ことを学びました。翌2013年には代打でも使ってもらいました。そして、規定打席不足ながら打率.295をマークしたのです。
30歳を過ぎた私の打撃面という「潜在能力のスイッチ」を押してもらいました。それまでなかなか打てなかったのが、少し打てるようになりました。大した数字は残していないんですけどね。FA宣言できるような選手になれたのも、40歳まで現役を続けられたのも、言わば栗山監督のおかげなのです。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら